■京都試作ネットの立ち上げについてお聞かせ下さい。 山本:私どもメンバーは、京都府南部地域における機械金属関連分野の中小企業経営者交流組織である京都機械金属中小企業青年連絡会(略称 機青連)に属しており、経営研究をする研究会でピーター・ドラッカーについての勉強会を行っておりました。 内容としてはピーター・ドラッカーがメインに掲げる顧客の創造についての勉強会だったのですが、どうすれば顧客の創造ができるのだろうということでした。事業の見直し/顧客の創造/予期せぬ成功という3つのパターンを見出すために研究会として、強調広告/工場見学/海外への視察/企業の紹介ビデオ作成など多くの事業を行ってきました。そういった状況の中、今までの勉強の成果を最終的にビジネスとして成り立たせることができるのか、実際にやってみたいということになったのです。 企業同士がコラボレーションしたことで本当にビジネスとして成り立つのかということを実証するために行ったのが、京都試作ネットという事業展開でした。 約20年近い積み重ねを経て、その最終段階での立ち上げということで、当初のメンバーも16人位いたのが紆余曲折により平成13年7月の発足時は10社位になっていましたが意識レベルは高かったですね。
■発足時の目標はどのようなものだったのですか。 山本:まず,個々の企業の利益だけを考えたらこの事業は成功しないと思いました. ピーター・ドラッカーの基本的な考え方が、企業の目的は顧客の創造であってその中の2つの機能をマーケティングとイノベーションとしております。利益はその後に出てくる企業としての8つの目標のうちの1つであって、利益と同じくらい重要なことがいくつもあるということを学んだのです。 そこでまず、この事業の理念を考えることになりました。私たちの企業は、京都で事業を始めて京都という町を愛している。しかし,他府県からみると非常に商売のやり難い土地柄でもあるのです。 皆さんは観光で京都に来られたときいいなと思っていらしゃいますが、多分京都に支社などがあるメーカーなどの社員は京都への赴任を嫌がっていると思います。それはなぜかというと、どこにいっても曖昧なのです。 あれやこれや色々といってきて、買ってくれるのかなと思うと買ってくれない。やってくれるのかなと思うとやるつもりはない。もうだめだなと思っているとやってくれるというように、非常に曖昧で商売し難いといって京都に来たことを後悔される方が沢山いらっしゃいます。 ただ逆にいいますと、このようなへんこつなものづくりやさん達が京都にはたくさんいるということが、1つの特徴となっていることも事実であります。それは京都には1,200年の歴史があり、ものづくりにも昔の技術をいまだに引き継いでいるという技の伝統があります。 やはりこれを大事にするべきであり、他所よりも良いものを提供でき、しかも量産物でなく数の少ないものを一個一個作り上げることで喜びを顧客にあたえることが最大のサービスになるのではないかと考えました。 ただ利益を上げるために沢山のものを安く作るということをせず、ものは高いけど顧客に喜んでもらえるものを作ろうというコンセプトの中に京都を織り込もうということになったのです。 京都は、良質でしかも心地よいものが生まれてくる土壌というイメージをもたせながら私達の企業理念を創ったのです。数の多いものを作るのではなく、「京都=試作」ということで京都を試作の一大産地にし、日本全国しいては海外からも試作というものが京都に集まる仕組みができればいいな、という思いが発足の経緯でもありました。
■試作の相談はどのようなシステムで進められるのですか。 山本:京都試作ネットのホームページに試作に関する相談窓口があり、そちらの専用メールフォームかまたはFAXからでもお受けしています。いただいた相談はすぐメンバー企業に伝達され、相談の内容により月担当が適任となる担当企業を決めて指名をうけた担当企業から顧客に営業時間内であれば2時間以内に返答します。 相談は他府県からの依頼が多く、私たちがデザインしたものを写真で送っても顧客にはなかなか伝わりづらいので、私たちのプラットフォームにはソリッドワークスの3次元ソフトウエアを使っています。そのため離れた顧客にもデータを見ながら修正することができます。 また、相談ごとに適任の担当企業が決められるため、1社にいくつもの案件が偏ることもありますが、1社で対応できない場合はコラボレーションするなどして対応します。難しい相談などに対しては、即プロジェクトを立ち上げたりすることもあります。その中に顧客も混じり同じプラットフォーム上でコラボレーションしながらものづくりを行っていきます。 このように、私たちが業務を展開するうえで企業内デジタルは切っても切り離せないものになっておりますし、今後の製造業を支えるのはIT技術と職人の技をうまく融合させて伝えていけるかということだと思っております。
■年間でどの位の問い合わせがくるのですか。 山本:最近どんどん増えてきている状況です。リピートオーダーを数えずに新規だけをみても年間約1,000件の問い合わせがきていると思います。 しかし成約率としては、約20〜30%とあまり高いわけではありません。価格の調査や合い見積り先として選ばれるケースが多く、合い見積りに関してはお断りしております。
■現状のメンバーを増やすというお考えはあるのですか。 山本:私どもは1つの大きな欠点を抱えていまして、それは過去20年間の付き合いがある人達が集まって紳士的にしかもお互いの会社の中に入り込みながらコラボレーションを作り上げてきたということです。その過去の付き合いがあったからこそこの事業が上手くいっているといえるのです。 しかし、そのような状況で、新規メンバーが入れるかというとこれはなかなか難しい問題になるわけです。いかにこの20年間を埋めるのかということなのですが、やはり今まで私たちがやってきた研究会などを凝縮しながら指導していくしかないと考えています。 私としてもこの問題を踏まえながら、今までの壁を何とか破りたいということで、現在約5社の確認をとり7月17日の代表交代時には現在の13社から18社へ、さらにこの1年間の間にもう5社増やす予定になっております。今後は毎年毎年増やしていこうとしておりますし、若いメンバー達も入ってきますので、どんどん拡大していきたいと考えております。しかしながら、やはり基本は機青連に所属するメンバーから優先に選びたいと思っております。それは、ある一定の意識レベルが一緒でなおかつ繋がりがありますから情報が入り易い、さらに機青連自体が利益を得るために集まっている団体ではなく、同業他社達が集まりながら切磋琢磨をし、研鑽するという場であるのでそれだけで一定の評価ができているというところからです。
■御社(山本精工梶jが京都試作ネットのメンバー企業になったことで、実際良かったと思われることはなんでしょうか。 山本:京都試作ネット立ち上げ時のメンバー10社の業態は個々に違っていて、同団体の理念に近かったのは轄ナ上インクスと当社でした。それは、両社とも試作に近いような数を追わない多品種単品といった仕事行っていたからです。 他のメンバーにしてみれば大変なプレッシャーがあったようです。分野が違うためなかなか馴染めず試作の注文がきても手間隙がかかって非常に辛い思いをしていたようです。そのような状況でしたので、当初は轄ナ上インクスと当社が中心となって事業を進めていました。それでも実際始めてみると、試作ものであればすべてカバーできるのかというと残念ながら試作というジャンルの中のほんの1部しかカバーできないことに気付いたのです。 ほとんどの案件すべてかすりもしないような状況でした。試作というと大変なものが多く、超高精度とか難易度の高いナノに近いものの話しもありましたし、化学に関することやまったく関係のない木工の話もありました。また企業や大学ではなく一般の町の発明家さんなどからもきました。 私たちの業態は、顧客から図面をいただいて初めてものがつくれていたのですが、図面すらわからない状態で自分のイメージだけで説明してくるような顧客が結構ありました。それを実現させようと思うと私たちがもち得なかった、設計/開発/デザインをしてモデルを作ったりすることが必要であるということが分かったのです。 それがこの5年の間にもの凄い勢いで体制が整いました。もともと単品ものをやっていた当社でさえこのような状況ですから、他のメンバーはそれ以上に苦労したと思います。この5年間でのビジネスの広がりはそれほど大きいものではなく、当社の売り上げとしても全体の5〜7%位しかありません。しかしそれ以上に私たちのなかに実力が備わりました。 当社でも実力が備わったおかげで、設計/開発/デザインができるようになったので、大変でしたが水上スキーのウェイクボードやロックグループ(B'z)のマイクスタンドなどを手がけることもできるようになりました。京都試作ネットの仕事を始めたことにより、当社に力の余裕ができたということが一番のメリットであったと思います。
■京都試作ネットの今後の展望についてお聞かせ下さい。 山本:発足してこの5年間で、京都を試作産地にしようという当初の私達の思いがかなりの割合で一応達成されました。 おかげさまで、経済産業省や近畿経済産業局がかなり力を入れていただいており、産学官連携といいますと京都試作ネットと絡んで下さいというように私達の事業を高く評価していただいています。また、グループ企業体に初めて「経営革新支援法・京都府知事計画承認事業」を与えられたのも私どもです。 現在京都では、京都府と(財)京都産業21が京都試作センターという試作産業プラットフォームを今年の7月に立ち上げることになり、様々な分野の試作会社や団体が集まりそのユニットに京都試作ネットも入ることになっております。 このように京都全体で試作というもののフィールドを確保しようという動きがようやくできてきました。これは私どもの5年間の活動の成果でもあり、前代表であった鈴木代表(轄ナ上インクス 代表取締役)の大きな功績であったと思います。 今後の京都試作ネットとしては、徹底した営業活動を行っていきます。営業活動により企業が変れたということも必要なのですが、それプラス新しい顧客をつくっていくということをやって行きたいと考えています。先程もお話ししましたがメンバーもどんどん増えて行きますし、その中の若手たちが活躍できるフィールドになり、非常に面白い環境になっていいものができてくると思います。
本日はお忙しい中ありがとうございました。
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