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メカトロニクス  第4回 オリジナルインタビュー

バックラッシ0(ゼロ)を実現

〜自主独立の気概でオリジナリティーを求める〜

 

加茂精工株式会社
ロングセラーの空圧機器・エアインデックスシリンダから始まり,世界で初めてノンバックラッシのボール減速機を商品化.ものづくりの難しさ,ものづくりに対する取り組みを,加茂精工株式会社 代表取締役 今瀬 憲司 氏に伺った.
加茂精工(株)
代表取締役 今瀬 憲司氏

■御社の設立,歴史についてお話ください.

今瀬:私は機械製造の会社で設計の仕事をしていましたが,1980年に独立をして機械設計事務所を開きました.しかし下請けでしたので図面を描いて渡すだけで,自分の設計した製品を見ることもできず,まして使われているところはまったく見ることができないのが不満でした.
 そのためにはメーカにならなければだめだと思い,それまでの設計経験を基にニーズがあるだろうと思われる製品を考え創ったのがエアインデックスシリンダの「ミニデックス」です.これは20数年たった今でも売れているものです.
 最初は一人の会社であり知名度もなく月に数本しか売れず,この頃は設計の仕事とメーカの両方やらなければなりませんでした.1年半くらい経った頃から月に20本50本と売れ出しメーカに専念して行くことにしたわけです.

■新しい製品が順調に売れ出すのが1年半後というのは立ち上がりが早いほうだと思いますが,原因は何だったと思いますか.

今瀬:アイデアが良かったのだと思います.誰でも扱いやすい空気圧で切り替えバルブが一つで,割り出しと位置決め動作ができることです.エアシリンダの扱いだけで済み小型で軽敏な割り出し装置というのが受けたわけです.一般に割り出し装置にはカムを使ったり大げさな電気装置を使うこと多いのですが,簡単な割り出しで済むようなところにはエアシリンダのような簡易に割り出しできるものがなかったのです.
 割り出し装置というと精度が良くて高速でと思いがちですが,そうではなく気軽に使える割り出し装置の需要はいっぱいあると思った着目点が良かったわけです.
 それと会社の立ち上げにはお金が掛かりますので,大げさな製品は造れません.空圧機器はそれほど大げさなものではなく,部品も安いものですからあまり経費も大きくなりません.
 良いことばかりではなく苦労もあり,その1つは品質管理を自分のところでできなかったことです.焼入れや表面処理の問題で部品に悪いものが混ざったり,お客様がバルブを開いてだんだん高速にしますと部品が割れたりしましてクレームがきたりしました.
 時代の背景として高度成長の後半でしたが,設備投資が盛んでしたので製品が売れていったこともあると思います.最初は製品を新聞紙でくるんだり,家庭で使った家電製品のダンボールを切って配送の箱にしたりしました.
 2年目を過ぎたあたりから自分のところにも工場を持たなければならないと思い,庭に15坪のスレートの工場を立て機械を入れました.
 この空気圧機器を作って25年になりますが,いまだに月に100本くらい売れています.
 2番目に造ったのが同じものをテーブル仕様にして重いものも載せられるようにしたものです.
ミニデックス(エアインデックスシリンダ、エアインデックステーブル)

■ボール減速機を創られたきっかけは何ですか.

今瀬:5年くらいすると社員も10名を越え,企業として伸びていくには1つの製品だけではだめだと思い次の製品を考えました.それには汎用性を持ったもので売れるもの,特許の取れるもの,自分のところで作れるものという条件のものを考えていました.
 その頃は第2次ロボットブームで,ロボットがモータで駆動する時代にはいっていました.モータ,モータ制御装置はいいものが作られてきましたが,減速機でバックラッシがなくロボットに使われるものはありませんでした.唯一米国製のものが一社あっただけです.これも減速比が50分の1より小さいものは出せませんでした.20分の1,30分の1のノンバックラッシの減速機があればロボットに最適だといわれていました.
 私はロボットにあこがれがあり,減速機にも深い興味を持っていましたので,米国の減速機に勝るものを作ろうというチャレンジ精神が湧いてきました.
 一番の重要な目標は,バックラッシがゼロあるいはゼロに近い減速機を創ることです.普通の歯車方式だと,かみ合わせのとき“がた”ができますので,この方式では絶対だめだと思いました.ベアリングやボールねじのように,ものとものとの間にボールを置いて転がり接触を歯車に応用すればよいのではないか,という発想は早い時期に思いました.
 ではボールを使ってどういう機構がよいか,ということを2年間考え続けました.その間は,日常生活の中でも物の形からボールの動きを考えたり,枕元にメモとボールを置き,会社でもポケットに入れたボールをいじっていました.円弧の上にボールを転がすことを考え何枚も図面を書きましたが,円弧の上では両方かみ合ってくれるのですがとがったところへくると離れていってしまいます.それで普通の円弧ではだめだと感じていました.
 そんなとき技術雑誌を見ていると,サイクロイド曲線のことが書かれており早速図面を描いてみました.サイクロイド曲線は,コンパスで円弧を描いたものより途中から線が内側に入り,細長いような形になります.トレーシングペーパに描いたもので試してみると,うまくかみ合っていきます.思わず「これだ」と叫んでいました.
 幾何学とかカムを知っている人にとっては,サイクロイド曲線は当たり前のことでしょうが,私は何も知りませんでしたので時間がかかったのだと思います.サイクロイドは回転しながら進むときにできる曲線ですので,マシニングセンターにエンドミルをつけて円弧運動させ,製品のほうを回してやると作ることができます.試作品を作りボールを入れ,手で回してみると,音もなくまわり減速していきました.そのときの感動は頭の先から足の先までしびれ,体の中から熱いものが湧き上がるような感じで,人生の中で一番嬉しかったことだと感じています.人がやっていないものに挑戦しできたときの嬉しさで,ものづくりの技術者が感じられるものだと思います.
 試作品はうまくいって減速しましたが,これは理論的にではなく私の直感でできたものです.これを理論的に減速していることを証明するために,山梨大学の牧野先生に手紙を出しお願いをしたところ製品を持ってきなさいとの御返事をいただきました.牧野先生は『メカトロニクス』に“自動化こぼれ話”という随筆を書かれており,それをまとめた『裏返しのメニュー』を御社から出されたころで,有名な先生でしたので恐る恐る山梨大学にお伺いしました.それから2ヵ月たってきちんと理論体系されたものをいただきました.
 この「ボール減速機」が平成元年に牧野先生と助手の方と私の連名で精密工学会賞を受賞いたしました.
 アイデアと理論はありましたが,実際の製品にするためには非常に難しいものがありました.一番難しかったのはサイクロイド溝の仕上げです.複雑な溝で,しかも硬いスチールボールの回転と力を受けますので丈夫なものでなければならず,かつ精度が要求されます.本来なら焼入れをして研磨をしなければならないのですが,1つの研磨に半日かかってしまいます.実際には表面硬化の処理をして製品化しました.
 しかし,大きな負荷をかけると歯がつぶれたり,寿命が短いというクレームもきました.硬い材料でコストが安く仕上がるものでなければ,これ以上ボール減速機はやっていかれないと思いました.
 それから4年ぐらいかかりましたが,ベアリングと同じ硬さで精度は5μm以下という現在のものができました.まだ課題が残っておりこれはこれから5年,10年かけて確立していこうと思っています.他社の減速機においても,何十年の歴史があるものでもいまだに開発研究はなされています.それほど奥が深いものです.コンパクトで安くて性能がいいものを追求していけば,きりがありません.近々性能の面でアップしたもの,そして来年は薄くしたものを出していく予定です.

 ノンバックラッシ ボール減速機

 

同心軸/直交型ボール減速機



 

■TCGランナーについてお聞かせください.

今瀬:TCGランナーは直線駆動用のノンバックラッシの製品で,コンセプトはボール減速機と同じです.これは「サイクロイドラック」という名前で昔から機構学の本にはあったもので,サイクロイド曲線の歯形のラックに丸型の歯を持つピニオンを組み合わせたものです.ところが製品化はどこもしていませんでした.その理由は2つあり,1つは機構例が書かれたのは大正,昭和のころで,当時はサイクロイド曲線の加工をするのが非常に難しかったことです.今はマシニングセンターがあるので,サイクロイド曲線の計算方式を入れるだけで加工ができます.もう1つは大事な欠陥があったことです.結論から先に言えばその欠陥を解決してくれたのが牧野先生です.計算どおりのサイクロイド曲線を作ると歯底の部分で干渉がおきてローラががたついてしまうのです.微々たるものなのでそれまで誰も気が付いていず,加工が悪い,設計が悪い,材料が悪いといってあきらめていました.牧野先生は歯底に注目し,干渉がおきてえぐれてしまうことを見つけられ,その解決方法を提案されたわけです.たまたま私が牧野先生とお会いしたとき,その話が出て当社で造ることになったのです.試作を作って評価してみるとバックラッシはほんとに少なく,高速で作動しました.
 ボールねじも良いものですが,早く動かすことができません.また,今の半導体や液晶の製造において5m,10mのラインが作られますが,ボールねじでその長さを作ろうとすれば軸は太いものになり造るための装置を新たに作らなければなりません.当社のTCGランナー&ピニオンは高速で,バックラッシがなく,長いものを作ることができるのです.性能はまったく申し分がないのですが,欠点は価格が高いことです.サイクロイド曲線歯のラックを作る機械がありませんので,そこで苦労をしていたわけです.汎用的な機械要素を提供しようという方針で,価格の面を今やっと解決し始めたところです.1つには薄型にしても計算上問題ないことが分かったので,薄型を造ることにより材料費を抑えたことです.もう1つは専用機を導入したことです.

TCGランナー&ピニオン

(ノンバックラシック&ピニオン)



 

■経営理念についてお話しください.

今瀬:動力伝達の色々な機械エレメントがありますが,その中から新たなものを提供していくというのが当社の方針です.
 新しくて有用なものを,お客様にいわれて作るのではなくこちらで創造し提案していくことです.進取の気持ちを持つことをモットーにしようというのが経営理念です.
 「新規有用なるものを創造提案し」という意味の1つは自主独立の精神を持つことであり,もう1つは人の真似をしないということです.


■今後の展開についてお話ください.


今瀬:今の売り上げ比率は,ボール減速機が6割,TCGランナーが2.5割ほどで残りは他のものとなります.来年か再来年にはボール減速機とTCGランナーはほぼ同じになってくると思います.
今年の4月から直交型のボール減速機も新しく発売しました.これはモータと減速機が直線状に並ばないので,スペース的に有利になります.
 このように新製品と従来型の改良を加えたもので売り上げを上げていこうと思っています.
 今の売り上げは10億円ぐらいですが,3年後には15億円,5年後に20億円,10年後に50億円を目指しています.20億円のころに株式公開を考えていますが,この目標は何とかやれそうに思います.


本日はお忙しい中ありがとうございました.

2006年6月号掲載

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