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メカトロニクス  第3回 オリジナルインタビュー

「力」は見える

〜デジタル指示計による力管理の変遷〜

 

ユニパルス株式会社

ユニパルス(株)
市場開発部 部長 星 竹夫氏

デジタル指示計において数値だけではとらえにくい物理量の変化を目に見える波形としてとらえることにいち早く着目し,F390,F370をはじめとするデジタル指示計を開発し,市場に投入.常に先駆者でありつづけるための製品開発へのこだわりとデジタル指示計開発の変遷をユニパルス株式会社 市場開発部 部長 星 竹夫氏に伺った.

■デジタル指示計の原点は何ですか.

星:当社の設立時のメンバーは,大手電機メーカで最先端の研究テーマに取り組んでいた電機分野や通信分野の技術者です.人工衛星の電力制御システム監視装置,駐車場の全自動料金清算機,パチンコ台の全自動釘打ち機など実にバラエティに富んだ製品開発に積極的に取り組み,時代を一歩も二歩も先行く独創的な製品を開発していました.
 この歩みの中で,極めて精度の高い,安定した増幅器の開発に成功したことが,当社のデジタル指示計開発の原点です.
 当時は,自動車や船舶を造るための実験が盛んに行われており,当社でも,車両の実験設備や造船所の試験水槽で使われる工業計測器の開発に取り組んでいました.生産設備の省力化,自動化に伴って,従来の“計るだけの機械”から“計りつつ制御する機械”へと時代のニーズは移ってきていました.“制御”するためには,計ったデータをコンピュータで処理し,計る部分にその情報をフィードバックしなければなりません.そこで,自然界の物理量(アナログ量)を正確にデジタル量に変換することが必要になったのです.当時は,真空管を使ったものや,トランジスタを使ったものが先端技術でしたがこれらのデバイスは自分が出すノイズや熱が原因のエラーが多いため,直流を扱う力計測では様々な工夫が施されていました.ストレンゲージの駆動をAC(交流)で行う交流駆動,アンプの入力をチョピングして増幅するチョッパーアンプなどです.しかしこれらは何れも回路が複雑で,調整個所が多く調整が難しい,接続ケーブルの影響を受けるなどなどの諸問題を抱えていました.それでも当時利用できる唯一の技術でしたので計測の主流となっていました.そのような時代背景の中で主流となっていた方式を全面的に覆す直結型の直流増幅器の開発を現会長の吉本が始めたわけです.回路がシンプルで,調整個所が少なく,接続ケーブルの影響を受けず,応答周波数が高い(反応が速い)などいいことずくめですが,当時入手可能なデバイス(部品)で実現するのは当時の常識では考えられなかったことです.吉本が工夫に工夫を重ね遂にモノリシックやチップ部品による薄膜集積回路では実現出来ない性能を保証する直流増幅器の開発に成功しました.この方法は現在でも陳腐化することなく利用しています.これが当社の力計測制御デジタル機器の原点になっています.

■デジタル指示計を最初に創られたのはいつごろですか.

星:1985年頃だと思います.産業界特に自動車メーカでは力を計測するテーマがたくさんあったころで,その要望に応えるために吉本の発案で高性能直流増幅器とデジタル技術(マイコン技術)を融合させた製品開発がスタートしました.
 力を計測するには,一般的に電気式の力センサ,いわゆるロードセルが使用されています.ロードセルは,金属に歪みを加えることで電気抵抗が変わる原理を利用しており,ロードセルに何も力がかかっていない状態の電気抵抗と,ロードセルに力が加わった状態の電気抵抗の差が加わった力と比例関係にあることを利用して計測します.しかしロードセルからのアナログ量(抵抗変化)は極めて小さいものです.そのような微小信号を温度変化やノイズなどに影響されることなく,安定に増幅し,かつ高速でデジタルに変換することが必要でした.そうした背景から,当時は力のデジタル表示は,一般化されていませんでした.アナログ信号をレコーダに記録して再生速度を遅くしてデジタル化して解析をしていた時代です.当社はすでに高精度な増幅器の開発に成功し高速デジタル化(A/D変換)技術を確立していたことから,デジタル指示計F360を開発することに成功したのです.
 F360はその後数万台つくられたベストセラー商品になりましたが,その大きな要因の一つにお客様から絶大の支持を受けた等価入力校正があります.ロードセルはその構造上から同一商品であっても出力信号の大きさが違うので,必ず一品一品校正をしなければなりません.具体的には既知の重さあるいは力をロードセルに加えてその重さ,あるいは力の表示をするようにゼロ点調整やスパン(ゲイン)調整をします.
 しかし実際にロードセルを機械装置に取り付けて既知の力を加えて校正することは簡単ではありません.例えば10トン1,000トンといった既知の荷重を加えることは事実上不可能です.ロードセルは前述の通り同一製品でも出力差がありますので定格荷重時の出力値を表した成績表なる物が一品一品添付されています.その試験成績表の数値をデジタル入力するだけで面倒な調整をすること無く校正できる画期的な校正方法です.
ボリューム,ポテンショメータなどと呼ばれるアナログ信号を調整する部品を一切排除した商品を作ること,これが吉本の方針でした.アナログ全盛時代の当時としては常識外の発想でしたが結果的には当社の特許にもなっている等価入力校正(当社が創った造語です)を生み出しました.
 F360の開発によって,指示計とロードセルとの組み合わせが誰でも自由にメーカの垣根を越えて使用できるようになり,自動車メーカだけではなく産業界全般に使われ,爆発的に普及しました.

F360
■波形表示のデジタル指示計はどのようにしてできたのですか.

星:F360は様々な力計測に使われています.ガスボンベごと重さを量ってガス残量の表示やエレベータの巻き上げ装置ごと量って定員オーバーの監視をするなど比較的ゆっくりした現象の計測と,プレス機で曲げる,ナットランナーなどのネジ締め機で締める,圧入機で差し込む,打ち込むといった作業の良否判定(良し悪しを判断)する比較的すばやい計測があります.ガスの残量を表示させるためには満タンに充填されたボンベを秤に乗せてその点をゼロとしそこから減った量が使用したガスの量になりますので満タンのガスの量がわかれば簡単な演算で残量が表示できます.しかし曲げや圧入の良否判定をするのはそう簡単ではありません.例えば釘を打った事がある方なら何方でも打った釘がしっかり効いているのかそうでないかは打っている途中でわかります.しかしその違いをデジタル表示で判断することはかなり難しいことです.加えた力とその力の効果を知る必要があるからです.
 ガスの話では単に重さの変化だけで目的が達成されますが.曲げや圧入では力の変化と時間あるいは変位との相関関係から良否判定しなければなりません.人は釘を打つとき加えた力と釘の入り具合を感じてベニヤ板と梁や柱に使用されている杉や檜に打っていることを知ることができるのです.つまり縦軸に荷重,横軸に時間あるいは変位を表した2次元のグラフに表すことで現象を把握できます.加えた荷重とその効果は荷重表示しか表示できないF360では見る事は出来ませんのでオシロスコープや高速のデジタルレコーダなどを使って計測し,そのグラフから荷重と時間の相関関係(特徴抽出)をF360上に仮想2次元のグラフをイメージして設定をしていました.これを私たちは心の目と呼んで専門知識にある種の満足感を感じている時期もありました.なんとも回りくどい方法ですがほかに低コストで実現する方法が無かったので様々なシーンで使っていただきました.
 「デジタル指示計にグラフ表示機能があれば」そんな思いははじめからあったわけです.
液晶表示が普及してきたこと,高速のプロセッサができたことなど実現手段が揃ったことが波形表示タイプデジタル指示計開発に着手するきっかけになりました.
 デジタル指示計とオシロスコープまたは高速レコーダ機能を併せ持った製品ですが,使用していただくお客様の目的はあくまでも作業の良否判定が目的ですので,オシロスコープまたは高速レコーダ機能のための価格アップはできません.プロセッサやメモリなど本来の計測で使用する以外の部品を増やすこと無く波形表示機能を実現すると云った開発者にとっては非常に厳しい条件で開発をはじめ,思っていた以上の出来栄えで開発出来た機種がF390です.
 このF390が力を判定する分野で波形表示をできるようにした第一号です.
 セットアップ時に波形を見ながら特徴抽出することにより,セットアップ負担を大幅に軽減できるようになり,専門の知識をもたなくても扱える利便性を兼ね備えた機器として,大変好評をいただきました.心の目が必要なくなった瞬間です.
F390


■デジタル指示計開発のF360からの変遷についてお話ください.

星:デジタル指示計の8割以上が圧入力のチェックに使われています.
 圧入力の良否判定は1987年にF360が商品化されたときから始めています.当時は,良否判定を行う範囲を外部から指定する方法(区間指定信号)で行っていました.
 次に1992年に創られたF366は,ワークが小さいときなど,この信号を出すタイミングが難しいため,デジタル指示計自身で圧入端近くのタイミングを捕まえようと考え,創られたものです.圧入工程で説明すると,一定の力で押し込むと反力が増えることにより一定の比率で力が上がっていき,押し切った時点で一気に最大荷重(プレスの推力)になります.その急激に力が変化した傾き変化点の力を捉えて管理をしようという考え方です.これを変曲点ホールドと呼んでいますがこの言葉も当社が創った造語です.自動車業界では一般名称として広く使われています.
 さて,セットアップの調整負担を軽減するために波形表示タイプのデジタル指示計F390を開発したことを先ほどお話しましたが,それと同時に,現場では,今までの1点の特定ポイントを検出して比較するだけではなく,複数のポイントを捉えられる多点ホールドの要求が出てきました.圧入開始直後のかじり検出をピークホールドにより行い,変曲点ホールドにより判定するといった一工程で複数ポイントの比較を行うなど,より複雑な要求です.2点が必要なら3点,4点とエスカレートするのは目に見えていました.実はF390には,せっかく波形が表示できるのだから,ポイントだけを比較するのではなく,表示した波形全体を判定対象にしてしまおうという画期的な考えを盛り込んでありました.良品の波形を基準波形としてF390に記憶させ,計測した波形を基準波形と比較して良否判定することができる機能です.
 変曲点ホールド


波形表示による良否判定

 波形表示によるメリットを活かしつつ,初めての人でも使える操作性を重視し,低価格にしたものがF370です.F370は入ってきた力の変遷を波形表示するだけで表示波形全体の良否判定には使えません.しかし,操作性は格段に向上しています.波形の中に特徴抽出点が赤く示され,自分の検出したい値をその場で確認することができます.また,カラー液晶タッチパネルを力計測の分野で初めて採用し,画面デザインについても専門のデザイナーの力を借りるなど,お客様が難解?な取扱説明書を見ること無く目的のセットアップができるようポップアップメニューやガイダンスを効果的に使用した分かり易く使い易いものを作るということに,かなり力を注ぎました.
F370&F371


■新製品の波形表示タイプデジタル指示計F381についてお話ください.

星:公差を一桁小さくする,高級化,高品質化に向かっている自動車などの製造に欠かすことが出来ない品質管理がありますが,公差を小さくすることによって当然良否判定もシビアになってきます.表示波形全体の判定では上限波形と下限波形をあらかじめ設定しますが,その上下限波形の幅をせまくすることができれば,それだけ,厳しい品質チェックができるわけです.とはいっても,実際のワークにばらつきがあるため,良品の波形をいくつか取ると良判定の幅が広くなってしまいます.そこでF381では,変位または時間で相対基準を儲け上下限の波形を相対移動することにより,判定の幅を狭くしたり,表示した波形の先頭だけではなく末尾から前に遡って判定することができる機能をつけることで,よりシビアに判定することができるようにしました.
 またF381は個々のワークの波形データをSDカードに記録することができます.産業界では,トレーサビリティ強化に向けた動きが活発化して久しいですが,トレーサビリティ実現のためにはデジタル指示計も個々のワークごとに記録をとることが不可欠となります.不具合発生時,対象になった部品の「履歴情報報告期限は一時間」ともいわれています.万一リコールが発生したときの対象物の特定化は企業の存続をも左右することにもなりかねません.記録したデータをすぐに解析できなければ意味がないのです.F381の記録データは汎用のソフトで容易に扱うことができます.
F381 



■次の課題をどのようにお考えですか.

星:我々が色々な機能をかなり自慢げにセールストークとして使っていますが,実はその大部分がお客様の目的を実現するための手段です.作り手側の知恵の無さが簡単操作などのフレーズを生んでいると思っています.工夫することは無限にあると思っています.これはかなり具体的ですが機器同士の有機的な繋がりを促進することです.例えば,何処にでもあるコンピュータとシームレスに情報を交換できるとかPLC(シーケンサ)ともメーカの垣根を越えて情報のやり取りができるなどです.しかもお客様がコスト負担をしなくてもすむ方法で実現できたらと考えています.

本日はお忙しい中ありがとうございました.
2006年6月号掲載

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