| ソフトサーボシステムズ株式会社 米国本社 代表取締役社長 Yang Booho(ヤン・ブホ) 氏 |
■設立の経緯
私は元々、MIT(マサチューセッツ工科大学)でロボット工学を、特にロボットの動きを人間に近づけることを目的とした制御について研究していました。また産業用や工業用ロボットのモーションコントロールでの、様々なアルゴリズムを開発していました。それらのアルゴリズムを大学で製品化することは出来なかったので、既存の製品に組み込んで機器やロボットの制御に役立つようになれば良いと考えましたが、どのロボット製品も制御部分はブラックボックスとなっており、組み込むことは不可能でした。 当時の私は研究助教授として、1995年に始まった『次世代のNC装置とロボット制御装置開発のための研究プロジェクト』を率いていたこともあり、自分たちでコントローラを作ってみよう、しかもハードウエアに依存しない、PC上でJAVAやビジュアルベーシックなどでプログラムを実装できて、コンパイルしたらすぐに動かせるソフトを作ろう、と考えました。これがソフトモーション開発のきっかけです。 大きな特長は、ハードウエアはPCだけで、しかも専用の組み込みボードを必要としないことです。このソフトモーションを、学会やMITに来訪する方々にプレゼンテーションするたびに、このソフトを使ってみたいという多くの支持を得ることが出来ました。しかし、大学ではビジネスに携わることができないため、1998年2月に会社設立をしました。 設立当初は、ビジネスに明るくない学生や教授が寄り集まったサークル活動の様でしたが、次第にビジネスの面白さに気づき、また自分たちの技術は市場で競争力を持っていることも実感できましたので、2001年にはMITは非常勤講師となって当社活動に注力することにしたのです。それまでは製品もプロトタイプしかなかったのですが、開発資金を集めて本格的な製品化に着手しました。翌年には出荷もスタートしました。 モーションコントロールに限らず、様々な機能がソフト化する傾向にあります。PCが大きく普及の手を広げたのは約10年前ですが、その当時のネットワーク通信にはモデムという専用ハードウエアを使っていました。また電話も専用ハードウエアを使って通話していましたが、それがソフトウエア化によりPC機能の一部として内包されるようになりました。例えば多くの情報量を取り扱う画像や映像の処理に関しても、今はキャプチャボードが担っている機能がソフト化される傾向にあるのではないでしょうか。 この様な時代の流れや技術の動向をいち早く見極め、ソフト化の中でも非常に困難だといわれていたモーションコントロールを手がけたことが当社の特長です。しかしながら4〜5年前までは、あまりにも時代の先端を走りすぎていたために、理解を得られることが少なかったことも事実です。その当時は『MITの研究テーマとしては興味深いが、生産ラインに導入することは考えにくい』と評価されていました。そしてその時からユーザーサイドはソフト化に対する不安がありました。それが、様々なソフト技術の進化とその浸透により、この1〜2年は簡単な説明をしただけですぐに製品の真価を理解してもらえることが多くなりました。
簡易ティーチング機能を搭載した 4軸汎用CNCソリューション |
最高16軸のモーション補間制御、業界標準のPLC、およびWindowsベースのGUIをパッケージングしたモーションコントローラ |
オリジナルの産業用パネル コンピュータも用意している |
■CPU性能の進化に着目 このソフトウエアは、専用機でなければ動かなかったモーションコントロールをPCで作動させることによるオープン化を図ったことと、ハードウエアを必要としないことで注目されていますが、私たちがなぜ専用ボードやDSPを頼らずにPCに搭載されているCPUを使うことにこだわっているのか、これには理由があります。それは性能の向上です。 通常であれば、PCの補助的な役割を担う専用ボードを使わなければ性能は低下すると考えますが、その専用ボードに使われているDSPと、PCのCPUを比べた場合、圧倒的に後者の性能が高く、世界最高性能のモーションコントロールボードに使われているDSPとペンティアム4では約100倍の能力差があると算出しています。当社はここに着目したのです。 世界最高性能のモーションコントロールボードは大変に優れた機能を持っていますが、その100倍の処理能力を使えば、どんなことでも可能になるだろうと考えたのです。そこにCPU能力の進化スピードを加味すれば、今は100倍の能力差が2年後には500倍、その先にはもっと差がついていることでしょう。その差は開く一方です。だから今のうちにCPU上で動作するモーションコントロールソフトウエア開発のベースを確立させておけば、CPUの進化に同調してソフトの性能や機能がどんどん良くなります。そうなれば専用ボードでも出来ない複雑な制御が出来るようになるだろうと予測したのです。そして、それはもう具現化しています。
■逆転の発想 この逆転の発想による技術においては、当社の競合先は存在しません。 当社のコア技術は、大きく2つになります。 1つは、WindowsやLinuxなど一般的なOSを使うPCで、高速のリアルタイム処理を可能にした技術です。これはWindowsなどのOSに依存しない仕様なので、OSがフリーズしても関係なく制御し続けることが可能です。これはCPUを制御専用チップとして使っている感覚です。その上にWindowsが走っていると考えていただいても良いです。 当社のソフトウエアがインストールされたPCの電源を入れれば普通にWindowsが立ち上がります。もちろん通常のアプリケーションやネットワークブラウザも普通に使えます。しかしPCの内部では、当社ソフトがCPUを専有し高速処理をしています。その処理の最中、余った時間にWindowsが動いているのです。CPUの処理エリアは非常に広大であり、当社ソフトが専有するのは10%程度です。その中で、ハードウエアNCやモーションコントロールでは複雑すぎる制御アルゴリズムを高速処理できるのです。一般のビジネスアプリケーションやメールソフト、ブラウザは残りの90%で十分なほど動きます。 ですから、当社ソフトは専用ボードを必要としていませんが、PCのマザーボードを専用ボードとして、CPUをモーションコントロールチップとしてソフトをファームウエアの様に組み込んで使っている、と見ることができます。その使用状況ではOSの安定性など、ほとんど関係なくなってしまいます。 もう1つは、リアルタイム高速制御で動作するモーションコントロールアルゴリズムのライブラリが充実していることです。 例えばNCのモーションコントロールで最も難しいとされている『先読み制御』『輪郭制御』があります。これを世界中のNC加工機器メーカが競って技術開発しているのです。Gコードのブロックを先読みし、データの前処理を行い、加減速の計算と自動調整を行うのが輪郭制御の要素ヌみを実現しています。この先読みするブロック数が多いほど高速性と高精度性を同時に実現できます。これが実現出来るようになったのも、CPUが進化したからだといえます。5年前のCPUではこの高速信号処理は出来ません、しかし現在ではクロックスピードが3.8GHzまで高速化しています。CPUメーカが莫大な投資をしてCPU性能を向上してくれますので、当社製品はそれに伴って年々性能が向上していきます。そのためアルゴリズム開発において、計算量の上限などを気にすることなく多くの複雑な計算を必要とするアルゴリズム開発に集中し、今まで有り得なかった制御ルールを作り出すことができます。ここが大きなポイントです。
■オープン化のメリット またPCベースで動作するモーションコントロールのオープン化は、様々なメリットを創出します。その代表的な事項に『PCの機種を選ばない』ことがあります。例えばオフィスや研究室などの環境下では、普通のPCで十分な動作を得ることが可能で、また生産現場など熱や粉塵が厳しい環境では産業用の堅牢なPCを使うことで安定した制御が実現します。もちろん自作PCでも動きます。この様に環境に応じたハードウエアをユーザが選ぶことが出来ることが導入の促進につながり、多くの機種から最適なPCを選び使うことで作業の効率化にも貢献できると考えています。 また、通常のWindowsの動作安定性に不安をもつユーザは組み込み形のWindowsを使い、フリーズにつながる要因をOSから取り外して最適な形に軽量化してから機器に組み込むことが可能です。この場合にOSは300〜500MBのサイズにまでコンパクトになりますので、より動作信頼性を高めるユーザは、不安要因となるハードディスクドライブも取り外し、替わりに512MBのコンパクトフラッシュメモリからOSを立ち上げることで安定性を確保しています。 この様に、故障の原因となる機械可動部分を極力少なくして、安定した制御を連続して行えることを『ゼロハード・コントローラ』という製品コンセプトとしてユーザに提示しています。『PCを使うことで故障が多くなるのではないか』というユーザの印象に対して、これも逆転の発想で、PCをベースとして専用ハードウエアへの依存度を低くすることで、より故障しにくいシステムを提供したいと考えています。これは専用ボードを使用しているユーザが恒常的に抱えている『メーカからの供給停止』に対する不安を取り除くことにも寄与する考え方だと思っています。
■インタフェース製造は浜松で 実際に当社製品を導入する段階になって、ユーザが懸念するのは、既存の設備を有効活用しながら、より複雑なモーションコントロール制御を実現し、マンマシンインタフェースを整備することです。これに関して当社は大変に有利であると考えます。現在、ユーザが使用しているシステムから専用ボードを除去し、当社製品をインストールし、ユーザが作り上げたインタフェースを最大限に利用するシステムを、しかも少ないプロセスと人員での実現することができます。ユーザにとってはシステムの外観やレイアウトがほとんど変わらずにシステムを変更できることをアプローチします。 それに、当社はDAコンバータやアナログインタフェース、ネットワークインタフェースなどの簡単なハードウエアも多く生産しています。ソフトウエア開発はアメリカ本社で行っていますが、ハードウエアの設計と製造は浜松で行っています。
■今後の展開 当社は、単にPCをベースにした製品を作っているわけではなく、物作りに革命を起こしたいと考えているのです。PC、IT、モーションコントロールの技術を統合して、非常に生産性の高い製品を提供してきたいと考えています。 現状は、機械メーカや加工機ユーザに対して世界でも類をみないオンリーワンのモーションコントロールソリューションを提供するというビジネスを展開しています。当社ユーザからも『この様なオリジナル性をもった製品は他にない』と評価されています。これを形作った開発技術の向上を押し進めながら、自社のブランド力を高め、最強のモーションカンパニーを目指しています。これは必ずしも最大規模の企業になることを指しているのではなく、また今はそのような時代でもありません。当社は高収益をあげるプロフェッショナル集団として、技術力の高いユーザに高品質のモーションコントロールソリューションを提供することを続けていきます。 その意味で、今は日本やアメリカの自動車メーカや加工機器メーカ、搬送装置メーカなどを中心として採用されています。今後、自動車や電子機器の生産が活性化するとみられているBRICsにおいても、当社に優位性があると考えています。それら地域は未だ製造インフラが整備されていないために参入の障壁が低く、またソフトウエア製品であるがために相手国で生産された製品に組み込みやすくローカライズも容易なので、受け入れられやすいのではないかと予想しています。 |