多様化するデジタル放送・映像配信におけるコンテンツの検証と配信システムの監視
日本テクトロニクス株式会社
■デジタル放送、デジタル映像配信の課題
デジタル放送は、地上デジタル放送設備の整備から新しいサービスへと関心が移っている。新しいサービスの形態として、IPによる映像のネットワーク配信も注目されており、既存の放送業界以外からの参入の可能性も高まっている。サービスを提供する企業は、いかにコストを抑えながらQoEを維持するかが、大きな課題といえる。地上デジタル放送による高い品質の放送が実現している今、新しいサービスにおいても高い品質のコンテンツを安定して配信することができなければ、視聴者はいとも簡単に離れてしまうことは明白である。
ここでは、デジタル・コンテンツの検証をデジタル放送・配信システムの特性を活かして効率よく行うソリューションと、配信品質を保つための監視ソリューションについて紹介する。
■サーバ・システムにおける自動コンテンツ検証
放送のデジタル化は、単に新しい変調や映像フォーマットの提供だけでなく、放送局内ワークフローに革新をもたらすこととなる。
現在の放送システムはアナログ放送をベースとし、リアルタイム・ベースバンドを基準に考えたシステムといえる。これはシステムの動作が実時間で動作するベースバンドを基準としているため、これまでのアナログ放送の延長で考えることができる。しかし、各システム要素がデジタル化されても装置間がベースバンドでやり取りされるシステムでは、エンコード・デコードが繰り返されることとなり、品質の悪化が懸念される。また、全てのワークフローが実時間で再生されるコンテンツの要する時間に束縛されることとなる。
現在の送出システムでは、VTRに変わってビデオサーバが広く利用されつつある。サーバ内では、コンテンツはMPEG2などの圧縮データにエンコードされ保存されているが、送出時には一旦ベースバンド信号にデコードされ放送用フォーマットに合わせて再度エンコードされる。つまり複数の不可逆圧縮を受けることとなる。これは、収録素材の取り込み、編集、サーバへの保存時でも同様である。また素材取り込み、コンテンツの配信、納入においては、実時間の作業時間が必要となる。 デジタル化はコンテンツの保存をVTRのようなリアルタイムかつ、リニアなメディアから、ディスクなどのファイル・ベースへと移行させた。
ファイル・ベースでコンテンツを取り扱えば、収録直後から送出直前まで実時間から開放されたオペレーションが可能となり、最小限のエンコード・デコードで素材品質の悪化を防ぐことができる。エンコーダを内蔵したカメラや圧縮データを直接扱う編集システムなどが、このファイル・ベース放送システムの実現の可能性を高めている。このようなシンプルなシステムは放送システムの運用コストを下げるとともに、障害やコンテンツの品質劣化を防ぐことができる。
ファイル・ベース放送システムにより、品質の低下の要因を削減できるとしても、コンテンツの映像としての品質、つまり映像・音声信号レベル、ガマットなどは確実に監視しなければならない。従来のシステムでは放送システムの各ステージにおいて、ベースバンド信号をモニタすることで監視が行われてきた。エンコード/デコードを最小限にすることのできるファイル・ベース・システムではベースバンドでの監視ポイントが限られてしまう(場合によっては送出までベースバンドへの変換がおこなわれない)。そのため、各プロセスで正確に作業が行われているかを検証することが難しくなる。必要なポイントで検証を行うためだけにデコーダを設置することは設備コストを増加させ、実時間を要するベースバンドによる検証では運用コストの増加を招く。
このようなファイル・ベース放送システムのコンテンツ検証のために、テクトロニクスは「Cerify(セリファイ)」コンテンツ検証システムを開発した。Cerifyはサーバに保存されたコンテンツをファイル・データとして圧縮したまま検証するシステムで、前述の信号レベルやガマットといったベースバンドによる検証に加え、MPEG-2やH.264/AVCなどの圧縮規格適合試験を同時に行うことができる。
Cerifyはエンコーダの設計などにも使われているESアナライザを解析エンジンとして使用しており、マクロブロックレベルまでのシンタックスおよびセマンティクス適合試験、バッファ試験を行うことができる。さらに、カラー・フォーマットやガマットの検査を行いながら、ブラックフレーム検出やブロックノイズによる品質劣化を検査することができる。従来のベースバンドによる品質検査は、主に送出時に人間が目視で行ってきた検査を肩代わりするものであり、圧縮素材をデコードし再生する必要があった。このような検査方法では、前述のように実時間以上のスピードで処理することはできない。Cerifyはネットワークで接続されたビデオサーバ内に保存されたコンテンツをコピーして検証するため、デコーダなどの再生機材を必要とせず、シンプルかつ確実に検証することが可能な完全自動検証システムである。
■多様化する配信システムのリアルタイム監視
ファイル・ベースのシステムといえども、一旦放送局から送出されると一部のダウンロードサービスを除けば実時間の伝送となる。コンテンツはMPEG-2あるいはH.264/AVCにエンコードされ、トランスポート・ストリームとして転送される。トランスポート・ストリームの伝送経路での監視もサービス品質を維持するうえで重要な要素である。ストリームの伝送経路は衛星/地上デジタル放送、ケーブルTVに加え、IPネットワークなど多様化が進んでいる。さらに電話、データ通信と映像配信を同時にサービスするトリプルプレイや、双方向性を持たせた「1対1」のサービスなど新しい試みが始まっている。このため、現在の放送事業者以外の参入により、映像配信分野における競争の激化を促進している。このような環境においてビジネスを成功させるためには運用コストを抑え、QoE、QoSを確保し競争力を高めることが課題となる。
現在注目されているIP-TVで使用されるIPネットワークは本質的に「ベスト・エフォート」ネットワークで、実用化された当時はデータ転送を目的としていた。このネットワークは帯域幅を十分考慮しておらず、ジッタの増大に伴うパケット・ロスやパケット・ドロップの影響を受けやすい。またパケットの再送信や異なった経路での転送によるパケットの異常到着の問題などが、映像配信におけるQoSに影響を与える。
映像配信サービスのQoSには以下のものがあげられる。
1.高いアベイラビリティおよびサービスの正常な提供に十分な帯域幅
2.ネットワークからの伝送遅延の低減
3.ネットワーク・ジッタの低減
4.パケット・ロスの低減
IPネットワークにおいてこれらのサービス・レベルは、ネットワークの状況に応じて動的に変化する。このため、安定したサービスを行うためには、常時監視を行いQoSの低下を視聴者に感じさせないよう配慮する必要がある。特にH.264などの高圧縮を施した圧縮映像では伝送エラーが視聴映像に及ぼす影響が大きいため、サービス・レベルの維持・管理は必須である。しかし、サービスの増加・多様化に対して、監視オペレータや熟練したエンジニアを確保することは難しくなっている。そのため、限られたスタッフで監視・保守を効率良く行えるモニタ機器が必要となる。
テクトロニクスの「MTM400A型」トランスポート・ストリーム・モニタは、RF、IP、ASIインタフェース上のトランスポート・ストリームをリアルタイムで常時監視するソリューションであり、監視機能と診断機能を一台に統合している。最大200チャンネルのRF/IP、および最大500のIPセッションを監視でき、主要なネットワーク・ノードに同モニタを配備することで複雑化する放送環境でも、効率的な監視により高いQoSレベルを確保することが可能である。
監視オペレータの作業を軽減するために、同モニタには独自のFlexVuPlus表示機能を搭載している。
簡潔で的確なFlexVuPlusのサマリ表示により、オペレータは一目で基準内の品質でサービスが提供されているかを判断できる。また視聴者がサービス品質の劣化に気付く前に、事前に対応処置を行うことは、実質的なサービス品質を維持することに寄与する。同モニタに搭載されたデュアル・アラーミングや7日間の主要パラメータの履歴のグラフ表示は、ネットワーク品質の動向監視、予測を行えるため、サービス品質を維持に有用な機能である。
運用コストの低減のためには、少人数のオペレータで広範囲のネットワークを集中管理することは有効である。同モニタは、強力なリモート・ユーザ・インタフェースを備え、ネットワーク上に配備された同モニタの測定結果を同時にモニタリング可能で、集中管理を行うことができる。多数のポイントの監視を行う場合でも、必要かつ重要な項目を選択的に表示するようにカストマイズできるFlexVuPlusはオペレータの負荷を大幅に軽減できる。
写真3 MTM400A型MPEG トランスポート・ストリーム・モニタ
トラブル発生時には、監視機能に加え、深いレベルの診断機能が必要となる。同じハードウェアおよびユーザ・インタフェースで診断が行えれば効率的であることは言うまでもない。同じユーザ・インタフェースにより、オペレータとエンジニアの意思の疎通も確実となる。同モニタはモニタリング機能に加え、サービス・エンジニアに対し複雑かつ詳細な情報を直感的に階層表示するマルチレイア診断環境を提供する。さらに拡張ナビゲーション機能がエラー原因を迅速に特定する。同モニタはストリーム・データの記録機能を持ち、エラーをトリガとして記録したデータを同じユーザ・インタフェースを備えたテクトロニクスMTS400シリーズ・アナライザで解析することができる。このように監視から診断、解析まで一貫した作業が行えるため、システムの最適化、ダウンタイムの短縮に大きく寄与する。
同モニタのコンフィデンス・モニタでは、PIDまたはTS毎にコンテニュティ・カウンタの不連続性、TR101 290 MGB2に規定された方式のビット・レート測定、SFN測定やパケット・サイズの検出ができ、最大155Mbpsまでのトランスポート・ストリームに対応している。また診断モニタリング・オプションには、PSI/SI/PSIP/ARIB SI解析と周期のグラフ表示、テーブルを詳細に表示できるトランスポート・ストリーム・ストラクチャ・ビュー機能、サービスコンテンツおよびテーブル周期のリアルタイム・グラフィック表示に加えオーバオール・ジッタ、到着間隔などの詳細なタイミング解析、ビットレート・テスト機能を備える。
了
エレクトロニクス電子計測技術2008年11月号掲載





