【インタビュー】世界に評価されている放射光用ゴニオメータの技術
—実験研究用の精密位置決めステージがFAの生産現場に活きる —
神津精機株式会社
1962年にX線回析に使用する精密ゴニオメータを開発、その後放射光用2結晶分光器を放射光施設に納入。
それらの装置のポイントとなる精密位置決め装置の技術は、今、生産財でも活かされている。
神津精機株式会社 代表取締役社長 神津 博行 氏にゴニオメータ、精密ステージの技術について話を伺った。
★ご好評をいただいた記事を再掲載いたしました★
代表取締役社長 神津 博行 氏
0.1角度秒の位置決め
■御社についてお話ください
神津:当社は1945年に、土地測量に使われるトランシットなどの測定器の修理業として、私の祖父が開業しました。祖父は、老舗の測量器メーカーに就職し、技術を習得して独立したわけです。測量器メーカーの社長は社員の独立を応援し、無利子で資金を貸してくれる方だったそうです。祖父は、測量器メーカーの近くに家をもち、庭先を作業場として仕事を始めました。測量器メーカーから修理の仕事をいただいていたわけですが、それだけではなく、戦後間もないときであり、欧米諸国の大手測定器メーカーの機器が入ってきていましたので、その修理も請け負っていました。海外の測定器の修理は、主に二代目である父が携わっていましたが、父にとってものすごく勉強になったようです。自分で調べながら、また、現物に触れながらの学習だったと思います。その当時の測定器の写真が、資料として残っています。
父は、科学技術に興味をもち工業高校から大学に進み、卒業後当社の仕事を手伝うようになりましたが、あるきっかけで知り合った友達が東大の大学院生でした。その方は、量子力学とか、レーザ干渉を使って距離を測る研究をされており、大学院で実験研究をされるときの装置を父が作っていたそうです。ミラーホルダ、レンズホルダ、ステージ、光学ベンチなどは今でこそ当たり前にありますが、当時は海外にはありましたが日本には無かったものです。それを、オーダーメイドのように作っていたのが、後々の実験研究の装置を作るきっかけになりました。
やがて、光学機器メーカーの下請けとして、顕微鏡の部品、載物台ステージも手がけました。また、製図器のメーカーの下請けとして製図器部品も作っていました。その意味では、下請けでものを作る町工場としてやっていたわけです。
■ゴニオメータに携わったきっかけは
大学のレーザ関係の装置を作っていたことがきっかけで、大学や研究所の実験装置の依頼も多くくるようになっていきました。大学で研究されていた方々が企業に行き、企業の研究所などからも注文がくるようになっていったわけです。
そのような時、X線光学の著名な先生が訪ねてこられました。当時、単結晶にX線を当て精密に角度を振ったときに、分光される波長が精密に制御されることは理論では分かっていましたが、実験では実証されていませんでした。実証のためには、かなり高いレベルの角度、位置決め精度と安定性の技術が必要になります。その先生は、海外の精密機械の技術を持っているメーカーを回られて、研究されてきました。日本に戻られ、日本の精密部品や機械の技術メーカーも訪ねられました。総合的な装置であるゴニオメータを作れるところを探して、祖父が働いていた測量器メーカーを訪ねたときそこの社長が当社を紹介され、その先生は当社を訪ねることとなったのです。
その先生の要求は、0.1角度秒の位置決めをするというものでした。0.1角度秒とは、1度の36,000分の1です。そのとき先生は、「そのためにこのような設計図を描いてもらったので、これを作ってくれないか」という話でした。そのとき父は、「この設計ではできない、それをやるなら自分に考えがある」と設計図どおりに作ることを断ったそうです。先生は困ったようですが、とりあえず作ってみるように言われました。そのとき、父が作ったものが成功し、その1962年に作られたゴニオメータ1号機は45年近く、ついこの間まで実験で使われていました。ゴニオメータの成功が評判をよび、当社はX線の方に入っていくようになりました。
同じころ、自動車のランプ類を測定する装置も作るようになりました。これは、大手ランプメーカーから試作・研究用に頼まれたものが、品質管理に使われるようになっていったものです。これも、ゴニオメータを使い、ヘッドランプの光がどの方向にどのくらいの強度の光が飛んでいくのかというレギュレーションを測定する装置です。この装置は、世界で米国と独国に競合が1社ずつあるだけです。レーザの装置も自社製品をそろえ、製品を広げていったのもこのころです。
放射光に用いられるゴニオメータ
■ゴニオメータについて簡単に説明してください
神津:X線関係の装置が最初の実験に使われたのは、実験室で管球から出す弱いX線でした。やがて、弱いX線では良い情報が得られないので、大強度の明るい光を目指すために放射光が実験研究に求められるようになりました。当社が、世界初の本格的放射光専用分光器を田無にある東京大学の原子核物理研究所に納入しました。
放射光とは、超高真空のチューブの中で電子を電磁石によって光速に近い速さに加速し、リングに入れ、そこで電磁石の磁力の向きを少し変えると接線方向に非常に強く幅の広い波長をもった光がでてきますが、その光のことをいいます。兵庫県の播磨科学公園都市にある放射光施設SPring-8 は80億電子ボルト(8GeV)が溜まる施設で、この分野では世界最大の蓄積エネルギーを持っており、その光は高輝度で、赤外光から高エネルギーX線ビームまでの広い領域(0.01eV‐300keV)の波長が含まれています。その中のX線を使って、シリコンの単結晶などの光学素子に当てると、条件にしたがって決められた波長がある角度で反射されます。角度を精密に制御することにより、エネルギーの波長を微妙に変えることができます。その角度の位置決めを行うのがゴニオメータであり、光を取り出すのが分光器なのです。この取り出された光は『魔法の光』ともいわれ、半導体シリコンのクオリティを調べるとか、バイオ関係ではたんぱくの構造決定に使うなど様々な分野の研究開発に応用されます。
分光器は、非常に難易度の高い機械で、当社でもいまだに苦労しています。
SPring-8 標準型二結晶X線分光器
■ゴニオメータの開発で一番苦労したのは何だったのですか
神津:毎回が新しい開発で、苦労した面はたくさんありますが、一番覚えていることは先ほど話しました兵庫県西播磨の放射光用大型X線解析装置で入札を受けた時のことです。以前に同様のものを作っていたことがあり、そのときの感覚で簡単にできるだろうと私が受けてしまいました。設計して作り、完成後精度の検査をしたら、ぜんぜん精度が出ませんでした。
複合された軸を動かすとき、周りが球面状に動いて試料のポイントは変わらないようにするのですが、その精度が出なかったのです。今までも、精度が出ないことがあって、部分的に作り直したこともありますが、このときはそう簡単にはいきませんでした。最初の設計から見直し、構造解析を行い理論的に部品を作り直していき合成された精度も出し直しました。技術と製造の人が10人くらいで取り掛かり、時間も長くかかりました。最後には満足ができる精度がでましたが、コストも時間もかなりオーバーしていました。
そのときに、ひどい思いをして悩み、コストも大変でしたが、そこであきらめないのが当社の強みです。ユーザーである研究者の満足を得る製品を納めることで、次の注文もくるようになります。二度目の注文の時には、一回目の苦労を全部盛り込み糧としたため、マイナスにはなりませんでした。
精密ステージの組み合わせにより1μmの位相を合わせる
■精密ステージについてお話ください
神津:当社ではモンブランシリーズと呼んでいる、精密XYステージのシリーズがあります。一製品が単一の動きをする機能性部品ですが、組み合わせることにより様々な動きになります。これも元は、ミラーを平行に動かすなどのレーザ実験装置からの技術です。まっすぐ、精密に、ミクロン単位で動かすために、ガイドとアクチュエータを使っています。実験研究には、こういった装置は欠かせません。当時は日本には無く、大学の研究室は海外のものを高く買っていたものを、当社で作れないかと相談を受け開発したものです。最初は一軸のXステージでしたが、そこから派生して、前後左右、回る、上下に動くさらには傾くという動きのものがそろってきました。
1987年に、ステージ関係を統一し規格化してカタログにまとめました。そのとき、モンブランシリーズと名前をつけました。このときには、すでに競合が何社かあってカタログ化しているところもあり、海外の会社のカタログも出ていましたが、当社はまだカタログ化されていなかったわけです。そこで、当社も規格化してカタログを作ったわけですが、そのときに敢えて、取り付け穴をほかの会社と違った当社独自の規格にしました。ですから、A社とB社のステージを組み合わすことはできても、当社のステージはコンパチブルではありませんので組み合わせることができません。どうしても組み合わせたいときは、間に変換スペーサが必要になります。商業的には非常にまずいと思うのですが、そのときには、当社はすでにある程度の製品をもっており、その製品の性能を損なわないように取り付け穴の位置の変更はできなかったのです。
モンブランと名前をつけたのは、他社の製品は表面が黒で処理されていますが、当社のものは原色梨地の白っぽいもので、それを、組み合わせていくと白い山のようになっていくからです。ただし、モンブランという名称は五万とあり、商標にはしないで愛称、ニックネームにしたわけですが、20年経った今は、ブランドになってしまいました。
この6軸マニピュレータはオーダーメイド製品ですが、3板式液晶プロジェクタの製造に欠かせないものです。液晶プロジェクタというのは、キューブ状のプリズムの3面に液晶素子が貼り付いています。貼り付けるときに、ブルー、グリーン、レッドと色を分解しており、そのため位相を合わせなければなりません。位相を合わせる精度は、1μmといわれており、その位置決めをするときに6軸全部が必要になるわけです。6軸組み合わせても、滑らかに精密に動き、剛性を保っていなければなりません。当社のこの技術は、なかなか真似ができない技術だと思っています。
スイベルステージは、もともとX線の実験用に作られたもので、シリコンのインゴットにX線を当てて方位を調べるために作られたものです。そのとき、シリコンのインゴットをいろいろな位置、角度に動かし位置を決めるための治具として作られたものです。方位の位置が決まれば、インゴットを固定し、スライドして位置に合わせてスライスしていきます。そのための装置だったのですが、今は、液晶プロジェクタの組み立てとか、最も使われているのは光ピックアップのヘッドの組み立てです。
その意味で、モンブランシリーズは何に使われるかは限定していませんでした。サイズもユーザーの求めに応じて作ったものが多く、当社が規格化したものはかえって売れません。昔は実験研究者が選んで使っていましたが、今は、家電メーカー・AVメーカー等の生産技術の方がFAの生産に使われることが多くなっています。例えばDVDレコーダー等の製品では、昔のビデオデッキ等と比べて、組み立てにおける治具のレベルが変わってきており、人間の手では組み立てられなくなってきており、当社のような装置を使わなければなりません。
1994、5年のバブル崩壊後から、急に産業界で使われるようになり、1994年以前はモンブランの売り上げは2〜3割りでしたが、モンブランの売り上げを5割に持っていく計画を立て10年でもっていくことができました。最近は、全売り上げの6割近くになっています。
6軸マニピュレータ
3板式LCDパネル貼付装置
真空対応Zステージ
真空対応回転ステージ
真空対応スイベルステージ
さらなる新シリーズへの展開
■モンブランの新製品を紹介してください
モンブランシリーズは、さらに売っていかなければならないと思っています。そのため、新シリーズを出していっています。この自動精密Xステージ『XA16F シリーズ』は、見た目には新しさは無いのですが、精度が良くて、高い剛性があり、コンパクトになっています。自動精密Zステージは、他社でも作っていますし当社でも様々な種類を作っていますが、これと同様の製品で精度の良いものはなかなかありません。上下に動くというのは、非常にスペース効率が悪く、ガイドの長さが短いために物理的に無理があり、しかも荷重をかけるということからうまく精度を出すのが難しいものです。『ZA07A-V1F』『ZA16A- 32F』は、ねじ式でステージを上げるものですが、ガイドの方式がユニークになっており、コンパクトで精度の良いものになっています。ZA16Aの耐荷重はカタログでは50kgになっていますが、あくまでもカタログスペックであり100kgまでの実験値を持っています。これは2007年の11月にリリースされたばかりです。当社の製品は、ニッチなものでピラミットの上の方でマーケットは狭いですが、どうしても探しているユーザーは当社に行き当たると思います。
長い蓄積の中から、真空の中でも大気中と同じ精度でできる真空ステージがあります。これは、放射光用分光器が真空中で使われるものですので、その技術が活かされ標準品になっています。真空ステージを大気中と同じ精度で、これだけラインアップしているのは世界でもなかなかありません。
高分解能精密ポジショナ『FPP03-13』は、開発して3、4年経っていますが、特許も取っており2007年に『第3回川崎市のものづくりブランド』に認定されています。高分解能で、感度が良いのが特徴です。中には、人間の耳の中のようにいろいろな部品が入っており、サブミクロンの位置決めが可能です。
自動精密Xステージ XA16Fシリーズ
自動精密Zステージ(左:ZA07A-V1F 右:ZA16A-32F)
高分解能精密ポジショナー FPP03-13
■今後の展開についてお聞かせください
神津:当社は、精密ステージを制御するコントローラも独自で開発しています。『SCタイプ』のコントローラはインテリジェントになっており、例えばオプションになりますが制御だけでなく計測してトリガーの信号を出すことができます。ソフトウエアも使い勝手がよく、使う側にとって用途が広がります。当社のように機械メーカーは機械が中心になってきますが、今後はコントローラにも力をいれ、強みにしていきたいと思っています。
海外の研究機関からの仕事は控えめにして、国内の研究機関に力を入れていきたいと考えています。やはり、海外関係はリスクも大きいので縮小の方向にして、米国の子会社も閉鎖することにしています。1980年代は採算を度外視しても、海外に広げていきましたが、今はそのような時代ではないと考えています。当然、採算が合えば海外にも販売していきますが控えめに進めていくつもりです。
日本における製紙産業は、成熟産業であり生産高もずっと変動はありません。当然、設備投資も少なくなっています。そこで、現在伸びている中国市場への開拓に注力を注いでいるのが現状です。当社は、ベストフォーマヤンキー抄紙機の中国への輸出実績が30台以上あります。中国が輸入している家庭紙用抄紙機の台数は、世界のメーカーと比べても当社の製品がナンバーワンになっています。
背伸びをせず、当社の規模に合った家庭紙用抄紙機という大手が介入してこないような小さな市場を狙っていくのが、当社のような中小企業が残っていくために必要なことだと思っています。
■本日はお忙しい中ありがとうございました。
メカトロニクス2008年2月号掲載
