Agilent MXG:これからの放送機器メーカに求められる高性能・汎用信号発生器
アジレント・テクノロジー株式会社
■はじめに
2003年に東京、大阪、名古屋の3都市で開始されたデジタル放送は、2011年の完全移行を前に堅調にその範囲を広げている。インフラとしては親局や大型の中継局は全国展開がほぼ完了し、小型、廉価な中継局やギャップフィラーなどの設置が今後ハイピッチで進んでいく。デジタル放送の普及は国内だけでなく海外でも進んでおり、ブラジルや中国などは巨大なマーケットになると目されている。一方、WiMAXやLTEに代表される通信の高速化、放送コンテンツのデジタル化に伴い放送と通信の融合もより一層加速する方向にある。
こうした動きを受け、国内の放送機器メーカは変化が求められている。一部のメーカでは国内向けの機材の小型化、廉価化を進め国内市場における競合力の確保や、海外放送市場や通信市場への進出を図っている。この結果、測定ニーズ、特に信号発生に関するニーズが変遷してきている。送信機テスト市場において、たとえば今までは一般的に手に入る信号発生器の性能が不足していたため、高コストで巨大な信号発生モジュールを送信機メーカが独自に内製してきたが、現在では小型化、廉価化に伴う開発・量産の効率化を進めるに当たりこのようなコストはかけられなくなってきており、廉価かつRF性能の高い信号発生器が求められている。また、機能としては従来のような、映像信号や番組の作りこみにフォーカスした国内放送専用の信号発生器よりも、海外の多様な規格や通信規格にフレキシブルに対応できる測定器が求められている。
このような市場ニーズの変遷に対し、アジレント・テクノロジーは小型・廉価で測定器業界最高のRF性能を誇る、汎用信号発生器Agilent MXG(写真1)で対応している。アジレントはその非常に高性能な汎用のRF測定器と廉価でフレキシブルなソフトウエアを組み合わせることでさまざまな無線規格に対応し、無線通信の測定市場においてトップシェアを維持してきた。今回はこのMXGとデジタル放送向けSignalStudioソフトウエアによるデジタル放送規格への対応について紹介する。
■優れたRF特性をもつMXGシリーズ信号発生器
MXGシリーズデジタル信号発生器N5182Aは優れたRF特性をもつ。隣接チャネル漏洩電力(ACPR)は非常に小さく、業界最高レベルの特性である。オプション指定により単体で+23dBmという高出力レベル(50MHz~3GHzにおける仕様)に対応する。これにより外付けブースターアンプの必要がなくなり、よりシンプルな測定システムを構成することが可能となる。波形、周波数、出力レベルなどの切り替えも速く、標準で5ミリ秒以下、オプション指定で1.15ミリ秒以下と従来の信号発生器と比較して10倍以上の高速スイッチングを実現している。同一価格帯製品はもちろん、よりハイエンドの製品と比較しても見劣りしない特性といえる。このような高性能を示しながらも、高さ103mmのコンパクトな筐体サイズとなっている。
内部は簡素化された設計によりRF、ベースバンドをそれぞれ1枚のボードに集約、電源など含めて全部で5つのアセンブリで構成されている。万一の故障の際には交換用のボードを取り寄せて自分で交換することも可能である。これにより不具合時の機器のダウンタイムを最小限に留めることができる。
■高い変調精度のISDB-T信号
送信器、中継器で使用する高性能なアップコンバータやアンプの本当の特性を評価するには、変調精度(MER)が高くかつ相互変調積(IM)が十分に小さな試験信号を用いる必要がある。 N5182AはISDB-T信号の出力についてもMERが50dB以上、中心周波数からのオフセット3MHzにおけるショルダアッテネーションが約60dBといった優れた値が得られる( 周波数37.15MH、出力レベル-10dBmにおける実測値(図1)。
図1 ISDB-T信号のスペクトラム波形
■Signal Studioによる各種規格へのフレキシブルな対応
N5182Aは内蔵のベースバンドジェネレータに入力された波形データを忠実に再現してRF信号を出力する。この波形データはPC上で動作するSignal Studio 波形データ作成ソフトウエアで作成できる。
たとえばISDB-Tの場合、デジタル放送用Signal StudioソフトウエアN7623Bで各種パラメータを設定して波形データを作成する。モードや階層、キャリアの変調方式など各種のパラメータ設定が可能である。作成した波形データはLANケーブルやUSBメモリ経由で同器の内蔵メモリにコピーすることで信号の出力ができるようになる。
N7623BはISDB-Tだけではなく、欧州を中心に広く普及するDVB-T/Hや北米のATSC、中国のDTMB、中国のモバイル向けCMMBといった各国のデジタルテレビ放送規格に対応している。さらにJ.83 Annexといったケーブルテレビ放送規格やDVB-S、S2など衛星放送規格にも対応する。このようにN7623Bはさまざまな放送規格に対応し、同ソフトウエアで各規格に対応する波形データを作成することで、これら各種の放送規格信号を1台のN5182Aで出力することができる。
Signal Studioソフトウエアはデジタル放送以外に、各種の通信規格にも対応している。たとえば、各種携帯電話、無線LAN、WiMAX、Bluetoothなど、広範囲なアプリケーションをサポートしている。これにより、1台のN5182Aでデジタル放送だけでなく、さまざまな無線規格への対応が可能である。
■マルチキャリア波形への対応
N7623Bはギャップフィラーの試験に必要なマルチチャンネル信号にも対応している(図2)。最大で10チャンネルの設定が可能である。これらのチャンネルは単にスペクトルを模した擬似信号ではなく、各チャンネルともISDB-Tの変調がかかった信号となっている。さらにN5182Aの変調帯域幅(最大100MHz)の範囲であれば間をあけたチャンネルの設定も可能である。
デジタル放送を取り巻く環境の変化にあわせて放送機器測定器へのニーズも変化している。アジレント・テクノロジーでは、汎用計測機器である信号発生器と専用ソフトウエアを組み合わせるというソリューションにより、これら変化に対応するデジタル放送機器測定器を実現している。汎用計測機器をベースにすることで、日本のISDBTだけでなく各国のデジタル放送、さらにはデジタル放送以外のアプリケーションにも対応が可能である。
非常に優れたRF特性をもつ小型、廉価のMXGシリーズ汎用信号発生器とSignal Studioソフトウエアの組み合わせは、高いMER、小さなIMのISDB-T信号出力を実現している。
了
エレクトロニクス電子計測技術2008年11月号掲載

