【インタビュー】3cm角小型ロボットと微少液滴塗布システム
─ ナノメートルとピコリットルの要求に応え ─
株式会社アプライド・マイクロシステム
電気通信大学の青山尚之教授が研究開発を進めてきた3cm角の小型ロボットは自走するうえ、穴あけやはんだ付け、液滴塗布などの作業ができるのが特徴。このシーズ技術を事業化するために大学発ベンチャーとして設立された株式会社アプライド・マイクロシステム 代表取締役 加藤 好志 氏に、起業と技術について話を聞く。
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代表取締役社長
加藤 好志 氏
■御社についてお話しください
加藤:当社は電気通信大学・青山研究室の開発した手のひらに載る「マイクロロボットシステム」の企画・開発・製造・販売およびコンサルティングを主な事業としています。
圧電デバイスのメーカーに勤めていた私は、4、5前から、積層圧電アクチュエータを通して電通大の青山教授とお付き合いがありました。しばらくして、青山教授から自らのシーズを基に大学発ベンチャーの起業をしたいという相談を受けたのは2004年2月ごろです。6月に前の会社を退職し、翌7月にはベンチャーを立ち上げるために、ここ電通大にきました。8番目の電通大発ベンチャーとして、設立のために発明協会から大学発ベンチャーの支援制度のサポートをしていただきました。半年の準備期間の後、2005年1月に「アプライド・マイクロシステム」を設立しました。
青山教授は、3センチメートル角の超小型ロボットを研究されており、当社はその実用化に向けて開発を進めていました。
私は、ユーザーになりそうなところへ話をもっていきましたが、「おもしろいね」とは言ってもらえるものの、「使ってみよう」という企業は現れませんでした。そんな状態が1年半ほど続きましたが、昨年の夏ごろから動きが出てきて、開発委託があり受注実績がようやく出てきました。
■今年で設立されて2年経ったわけですが、この間に大変なことはありましたか
加藤:当社にとって「技術シーズ」は問題ありませんでしたが、経営資源のうち「開発人材」と「経営人材」が不足であり、そこを補うのがポイントでした。
「開発人材」は、シーズ技術を「おもしろい」という段階から「使ってみよう」というところに持っていくためにどうしても必要でした。設立年の11月に技術開発を担当する優秀な技術者が入社しました。その翌年に入って、ある微細部品のユーザーから、組立に使うマイクロロボットの共同開発の話があり、満足していただけるソリューションを提供することができ昨年受注することができました。また、微少液滴塗布システムの分野においても、同じような案件が数多く出てきています。
「経営人材」においては、会社の体制をよりビジネス寄りにしようと考えた時期に、2人の民間企業出身の方に取締役に就任してもらい、開発と知財・海外・総務を担当してもらい、新経営体制を構築することができました。
ベンチャーとしては人材資源と並んで「資金調達」も重要ですが、設立当初から色々な助成金で開発を進めていましたが、その限界にきたときにコラボ産学官ファンドからの出資を受けることができました。そのおかげで、開発や営業の展開に勢いをつけることができましたので、感謝しています。
■御社が得意とするマイクロロボットシステムについてお話ください
加藤:当社には4本の柱1.慣性駆動ロボット、2.磁気駆動ロボット、3.微少液滴塗布システム、4.細胞マニピュレータシステムがあり、これらは超小型ロボットシステム(マイクロロボットシステム)をベースにしております。この超小型ロボットシステムとは、手のひらに載るほど小さいサイズの超小型ロボットで、そのロボットに様々なツールを搭載することにより、人間の手作業ではできないことを可能にしました。この四つについてそれぞれ説明したいと思います。
1.慣性駆動ロボット
慣性駆動ロボットとは走査型電子顕微鏡の中で、観察しながらナノ、もしくはマイクロの操作ができるロボットでカーボンナノチューブの強度検査や、半導体デバイスの欠陥検査・修復に使用することができます。
電子顕微鏡の電子ビームの下に、観察用のチルトステージを搭載したロボットを配置し、その左右にナノ操作をするマニピュレータを搭載したロボットを配してSEM画像を見ながら微細な作業をすることができます。現在、ユーザーが抱えている問題点は、精密なステージは従来からあるのですが、真空チャンバ内に入りきらないという点です。しかし、当社の製品なら、真空チャンバに簡単に収めることができます。
電磁石を使った磁気駆動ロボットとちがって4つの圧電素子のみで構成され、電磁石の漏れ磁界が走査型電子顕微鏡の電子ビームへ影響を与えて画像が乱れるようなことがありません。原理は、慣性駆動すなわち、圧電素子を急速に伸縮させることで移動できます。4つの圧電素子を備えておりますので、直進だけでなく、回転、そして円弧動作も可能です。これだけだと平面上を動くだけですので、圧電素子3つの上に置いたチルトステージを搭載しております。このチルトステージも圧電素子により滑らかに傾斜させることが可能で、様々な角度から観察することができます。
カーボンナノチューブや半導体デバイスをSEMで観察しながら微細作業ができます。
2.磁気駆動ロボット
圧電素子と電磁石で構成された磁気駆動ロボットというのもあります。これは電磁石により磁性金属基板にしっかりと吸着するロボットで、側壁や天井も昇ることが可能です。 この磁気駆動ロボットには2つのタイプがあり、1つが戦車型ロボットと呼んでいるもので、戦車のようにXθ方向に進むタイプです。そして、もう1つはXYθ方向に移動が可能な磁気駆動ロボットです。 磁気駆動ロボットは3cm角の大きさで、電磁石を脚として2個持ち、電磁石の脚先4本から磁力を発生し、金属性の移動面ならば水平面に限らず垂直面や天井面であっても吸着し移動することができます。電磁石の間に入れた積層圧電アクチュエータを伸縮させ、尺取り虫のように精密に脚を動かすことにより、超精密に位置決めすることが可能です。そのため、レーザ干渉計のミラー位置決めなどに利用できます。
3.微少液滴塗布システム
他にも、インクジェットの液滴塗布に問題を抱えているユーザーなどを対象とした、微少液滴塗布システムというのがあります。
これは塗布液体が毛細管現象によってガラス管に吸い上げられ、表面張力で保持されます。そして、ガラス管の中を直径10~200μmのタングステン針を降ろして液体の中を貫通させます。タングステン針は、その先端に微少量の液体が付着したまま、ガラス管下部の穴から抜け出で、そのまま針を降ろすことで、先端に付着した液体を塗布基板へ転写させることができます。これが微少液滴塗布システムの原理で、タングステン針を変えれば0.1~数100pl(ピコリットル)という微少量の液体を塗布することが可能です。
もちろん点だけでなく、線を描くことも可能です。またインクジェットでは、非接触でしか塗布できなかったのに対し、このシステムでは接触・非接触どちらの方法でも適用することができます。
用途としては、1)タンパク・DNAの分注、2)接着剤・はんだペーストの塗布、3)液晶パネルの断線リペアなどが考えられます。また磁気駆動ロボットに微少液滴塗布装置を搭載することで、狭い作業スペースでも塗布することが可能です。
当社の微少液滴塗布システムは、インクジェット法の問題点である1)目的位置にフォーカスすることが難しい、2)塗布量の変更が面倒、3)段差のある基板には塗布できない、4)高粘度の液体は吐出できない、5)インク室に残存する液量が50%もあるなどの欠点を解決できます。数多くのユーザーから引き合いがあり、実際の液体や基板を持ち込んでいただいて塗布サービスもしております。
4.細胞マニピュレータシステム
最後に、細胞マニピュレータシステムですが、これまで細胞を操作する場合、シャーレ内の生体試料を、ホールディングピペットとインジェクションピペットを用いて、操作者が顕微画像を見ながら手作業で行っていました。これは手動操作によるため、操作者の技量によって作業の成功率が大きく左右されます。
そこで、この細胞マニピュレータシステムが活かされるわけですが、このシステムは、さらにピペットを微小振動させて液に局所流動を発生させて、細胞をピペット先端に引き寄せトラップすることができ、精密な回転制御ができます。さらに顕微作業を自動化できれば、ノックアウトマウスやトランスジェニックマウスの操作効率や成功確率を大幅に向上できます。高精度・高効率に半自動で操作できる装置で、バイオ・医療分野、たとえば細胞の核にDNA(デオキシリボ核酸)を注入するなどの利用への貢献が期待できます。
■まだ具現化されていない技術はありますか
電気通信大学の若手教授で、当社の技術顧問でもあります稲見昌彦先生が研究されているシーズ技術があります。これはロボットの底面にフォトセンサーを配置し、それが画像をセンシングし、センシングした画像上のマーカとのズレを算出しゼロになるように移動する技術で、画像上のマーカが移動すれば、ロボットはそれに合わせて移動するというものです。つまり、パソコンディスプレー画像やプロジェクターの投影画像によりロボット制御ができます。
また青山先生は自走ロボットの上にナノパーツ用基板を載せ、ナノインプリント搭載ロボットが成形をしたり、ナノパーツ供給ロボットがナノパーツを供給して、ピコリットル液滴塗布ツールを搭載したロボットが接着材やはんだを塗布するなど、机の上が工場になるデスクトップロボットファクトリーを構想されています。これはまだ実現されていませんが、非常に有用な技術と言えます。
他にも、大阪府立大学名誉教授の津村俊弘先生のコーナーキューブによる光空間通信技術というのがあります。コーナーキューブとは、3枚の鏡をそれぞれ直角に配置したもので、各2面で構成された3本の稜線は互いに直角になり1点で交わります。コーナーキューブに入射した光は必ず入ってきた方向へ戻るというのが特徴です。このことは、コーナーキューブが高速で3次元移動しても可能です。
この技術を光通信にも応用しようと考えております。レーザ発信器からコーナーキューブにレーザを放ち、コーナーキューブがレーザを受けたときに変調器で変調を加えれば、その変調された信号を受けることができます。特徴は電磁波通信と違って、秘匿通信が行えるということです。通信を行えないように、第三者がレーザを遮ることは可能ですが、第三者がそれを傍受することはできません。
この通信のメリットは、傍受されないというだけでなく、電磁波の場合のような認可・規制が一切ないということでもあります。当社ではこの技術を活かし、シングルチャンネル通信のデモ機を製作しユーザー開拓の展開をしていこうと考えています。
■ありがとうございました
メカトロニクス2007年6月号掲載








