【インタビュー】イノベーション創出に向けた産学官連携の強化
─ グローバル競争の中、企業と大学等の本格的な連携により持続的な発展を図る ─
文部科学省科学技術・学術政策局
科学技術により世界を勝ち抜く国際競争力の強化を目指している第3期科学技術基本計画。イノベーションを生み出すには、より本格的な産学官連携へ深化を図るべきであると捉えている。その取り組みを文部科学省 研究振興局 研究環境・産業連携課 課長補佐 上田 光幸氏に産学官連携、大学発ベンチャーなどを中心に伺った。
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文部科学省 研究復興局 研究環境・産業関連課
課長補佐 上田 光幸 氏
■第3期科学技術基本計画において1期、2期と違うところからお話ください
上田:科学技術基本法が平成7年に制定されて以降、産学官連携は着実に進展してきました。今回の第3期基本計画の策定に当たって、これまでの基本計画の成果が検証されましたが、科学技術の予算は着実に増大し、競争的資金が大幅に拡充しています。研究論文の質が目に見えて向上しつつあり、研究開発水準は確実に向上しつつあるといえるでしょう。これと並んで、産学官連携が非常に進んだということが主要な成果として挙げられると思います。
具体的には、国立大学と産業界の共同研究実績が平成8年には約2,000件だったのが平成12年に約4,000件、平成16年には約9,400件と5年で倍増以上のペースで延びてきています。また、平成15年度から知的財産本部が各大学にでき、平成16年度からは国立大学が法人化されています。TLOの技術移転実績も着実に増えています。TLOの特許実施許諾件数は平成12年は125件でしたが平成16年には1,863件になりました。大学発ベンチャーは平成17年に 1,000社を超えています。
このように産学官連携は全般にわたって進展しており、大学や産業界の意識改革もかなり進んできているのではないでしょうか。
そのような中で、第3期科学技術基本計画の策定過程において議論されたことの一つに、我が国および世界を取り巻く時代認識があります。いま先進各国において産学連携はもとより、イノベーション政策を非常に重視するようになって来ています。国際競争が厳しさを増し、科学的裏付けや独自の基礎研究を基に競争力ある製品開発をしていくことが益々求められており、わが国においても、既にキャッチアップ型ではなく、独自の基礎研究の成果からイノベーションを起こすということが政策課題になっていると思います。
米国や独国においては100年ほど前がキャッチアップの段階にあったと思います。独国においては英国で起こった産業革命が広がる中において、最初はキャッチアップ型で産業を興してきましたが、マックスプランク学術振興協会が設立されて基礎研究を始め、多数の優れた科学者を輩出し、産業にも結び付けていくということが行われました。米国においては20世紀初頭にカーネギー財団、ロックフェラー財団などで、大きな資金を投入し基礎研究を振興するなど独自の研究システムの構築に努め、今の姿があると思います。
中国においても、経済の台頭が激しく技術先進国へのキャッチアップが著しい中で、今年策定された第11次5カ年計画で「自主創新」ということを強く打ち出しています。「自主創新」とは自主的なイノベーションということだと思いますが、中国も自ら新しいものを作っていくという姿勢を打ち出しています。つまり大学や公的機関の基礎研究を国の競争力に結び付けていくというイノベーション政策が各国で活発になってきているということです。
基礎研究をしてイノベーションを起こし国の競争力を上げていくことは、大学や公的機関の研究成果が民間企業で事業化されるということですから、産学官連携というのは、このようなイノベーション政策の基幹コンセプトということになります。
第3期基本計画においても科学の発展と絶えざるイノベーションの創出という節の中に産学官連携が位置づけられています。
イノベーションを生み出すシステムの強化ということが第3期基本計画の中で謳われています。第2期においては競争的資金と産学官連携は別々の章に位置付けられていましたが、第3期は、競争的資金を含む多様な研究費制度を適切に整備・運用し、研究成果をイノベーションに次々と効果的につなげていくということ、産学官が連携してイノベーションを生み出すシステムを強化していくということ、さらには本格的な産学官連携への深化を図っていくということを相乗効果をもって展開していくという構成に変わりました。
■産学官連携の現状と展望についてお伺いしたいと思います
上田:産学官連携をマクロで捉えてみると、先ほど共同研究件数は増えたという話をしましたが、共同研究1件あたりの研究費の受入額はほぼ横ばいで推移しています。つまり共同研究1件あたりの規模が増えていないということです。また、国際比較は難しいのですが、大学の研究費における企業から大学への資金の割合は、先進国では4%以上ですが、日本は2%強となっており低い水準になっています。
また、わが国の企業における研究費の支出先を見ても、国内の大学より海外の大学・研究機関へ支出する方が依然として大きくなっています。産業界の研究開発投資の海外への流出傾向は変わっていないということです。
企業に日本の大学と海外の大学の違いをアンケートした結果がありますが、海外の大学は責任ある契約を柔軟に締結してくれるとか、企業のニーズを踏まえた提案をしてくれるとか、学内に協力体制が組織的に整備されているといった声があります。
一方で国内大学の研究レベルは向上しつつあり、それを国内の企業が十分に活かしきれているかという点もあると思います。大学も企業もより一層連携効果を高めていくことができると思っており、これが一つの課題だと思います。
国際比較をもう1回してみると、大学からの特許出願については米国では2002年のデータになりますが約6,500件であるのに対し、日本では2004年のデータで大学から約5,000件、TLOから約1,200件されており6,000件を超えるレベルになっています。したがって大学帰属の特許出願ということにおいては日本も進んできているといえると思います。しかし、特許が実施されるライセンス件数においては、米国が4,000件弱に対し、日本の場合は大学とTLO合わせて約1,000件で4分の1という状況です。ただしこれは、日本において大学の知的財産本部やTLOが着実に活動し始めていますので、今後は多くなると思いますし、増加傾向であると思います。
知的財産を確保していくためには数も重要だと思いますが、大学には、質の重視、つまり使われるような基本特許を出願していくことも求められると思います。
ライセンスをした上でのロイヤルティー収入を見ると、米国とは依然と大きな差があります。ただ、ロイヤルティー収入を増やせばいいのか、増えるものなのかというと必ずしもそうではないともいえます。たとえば米国の例を見ても、1億円を越えるようなライセンス収入を生み出す特許は全体の0.6%しかありません。スタンフォード大学のライセンス収入を見ても、数%の特許で大方の収入を得ているというデータがあります。ある意味、ホームランが出てこそロイヤルティー収入が入るという性格があります。産学官連携の成果がすぐさま大学のロイヤルティー収入に結びつくというものではないのです。
大学発ベンチャーもある意味同じことがいえると思います。2005年に1,000社を超え、設立されるベンチャー数は年間200社弱のレベルになってきていますが、米国でも年間400社くらいであり設立状況は悪いものではありません。ただ、その中からどれだけ成長ベンチャーが生まれたか、生まれてくるかというと、米国との差は依然としてあるのではないでしょうか。大学発ベンチャーが創出されていくことは今後も必要ですが、より成長力のあるベンチャーが生み出されていくことが重要ではないかと思います。
産学官連携をミクロで捉えていくと、様々な制度的な改善、整備が進んでいますが、制度の運用上の問題とか、現在起こりつつある問題点に適切に対処する必要があると思います。形だけでなくて、持続的で発展的な産学官連携に向けて深化していくべきだというのが第3期基本計画の方向性です。
例えば、個別事例やピンポイントの連携に留まるのではなく、面的な連携が進むようにし、また、既に有る大学の技術を移転するという関係だけでなく、大学と産業界が基礎の段階から対話によって研究課題を見つけ、一緒に育てていくという長期的な視点に立ったより深い関係が求められるでしょう。 そのようなことから、第3期基本計画では、「本格的な産学官連携の深化」と「産学官連携の持続的な発展」ということを謳っています。
「本格的な産学官連携の深化」は先ほど話したように、基礎から応用までを見通した共同研究などに取り組むということです。
また、産学官の連携の中では、共同研究成果の帰属をどうするかとか、企業ニーズに大学は迅速かつ柔軟に対応して欲しいとか、学生の守秘義務に対する認識を高めて欲しいとか、共同発明に係る不実施主体である大学に配慮してほしいなど産学双方から色々な問題が発生します。本来大学と企業は立場が違いますしミッションも違いますので、そういったものを理解した上で十分に話し合って問題の解決を丹念に図り、信頼関係の醸成をより進めていくということが「産学官連携の持続的な発展」ということです。
そのために大学の自主的な取り組みがまず求められ、知的財産本部の活動を充実させていくことが大切であり、TLOと知的財産本部との関係を明確にし連携を強化していくことが謳われています。
共同研究1件あたりの規模は横ばい 受託研究のうち民間の受け入れ額は少ない
知的財産戦略の強化・産学官関連の推進によるイノベーションの創出
■地域における産学官連携についてお話ください
上田:産学官連携が全国的に盛んになってきていますが、第3期では、地域における産学官連携の場合はどうなのかということも議論されました。
全国的な大企業と大学の連携とか、広域での大企業、中堅企業と大学の連携は進んだと思います。しかし、地域の大学と地元に密着している中小企業の間には、依然見えない壁というものが存在するのではないでしょうか。
一方では大学は法人化され競争が激しくなってきていますので、各大学が個性、特色を明確にして発展していくことが求められています。その中で地域の大学というのは、地域にとって重要な知的・人的資源ですから、地域とともに歩むという観点から、地域に開かれた存在として地域全体の発展に一層寄与していくべきということが盛り込まれています。大学の知識や、人材が地域の活力になっていき、さらにそれが大学からの新たな知識・人材の創出に繋がっていくという好循環が望ましく、このための「地域の知の拠点再生プログラム」が地域再生本部と関係府省の連携により始まっています。
地域の知の拠点再生に関しては、依然として地域の中小企業と地域大学との見えない壁が存在するのであれば、産と学をコーディネートする機能が必要だと思います。
文部科学省では13年度から産学官連携コーディネータを大学などに配置してきていますが、今年度から地域の知の拠点再生を担当するコーディネータの配置を開始したところ非常に多くの申請がありました。引き続き地域のコーディネート機能を充実させていく必要があり、そういった地域にも根ざした産学官連携の裾野を全国的に拡大していくことが必要だと思っています。
■イノベーションや産学官連携の促進については具体的にはどのように行っていくのでしょうか
上田:先ほど、イノベーションを生み出すシステムの強化が第3期では謳われているとお話ししました。 そのイノベーション・システムということでは政府の研究開発のファンディングは多様なものがあります。一つ一つのファンディング制度が研究開発の流れに対して切れ目なく整備され、趣旨に沿って運用されることが大事であり、ファンディングとファンディングの間で優れた研究が繋がれてきちんと発展し実用化に至ることが重要です。それは文部科学省のファンディングの中においても言えることですし、他省庁のファンディングとの間においても言えることです。
そして、そのような政府の研究開発ファンディングの成果が、民間企業での事業化に繋がっていくためには産学官連携を一層推進していかなければなりません。
具体的に産学官連携を推し進めていくにあたり、「本格的な産学官連携への深化」に関しては、科学技術振興調整費において「先端融合領域イノベーション創出拠点事業」を平成18年度から始めています。これは10年から15年後に新たな産業の芽となる先端技術を確立していくために、基礎的段階から産学が共同して先端融合領域における拠点を形成していくものです。それは研究開発拠点であり人材育成拠点でもあります。産学が長期的視点に立って拠点づくりをしていこうということに、平成18年度は40億円の予算が付いています。
また一つ一つの研究課題についても基礎から産学が共同して進むことが重要ですので、科学技術振興機構において「産学共同シーズイノベーション化事業」が平成18年度からスタートしています。これは1年のFSステージと最大4年の本格的共同研究ステージに分かれており、まずFSステージにおいて産業界と大学などの研究者に対話をしていただき、それでいいものが出てきたら本格的な共同研究をマッチングファンド形式で支援していくというものです。
これらは産学官連携を本格的な形態へと転換していくためのシステム改革のための支援ということができるでしょう。
■産学官連携の新たな展開としては他にどのようなポイントがありますか
上田:今後の産学官連携についていうならば、1つは地域を含めた産学官連携の裾野を拡大するとともに、ピークを伸ばしていくことが必要です。産学連携に非常に意識の高い大学はたくさんでてきています。一方でグローバル化が確実に進展しており、世界的な企業はいい研究があれば世界のどことでも産学連携をしています。米国の研究大学といわれるところは、色々な国との産学連携を進めています。グローバル企業からは、日本の大学におけるポテンシャルや技術にも当然目が向けられています。その中で日本の大学がいかに対応していくかということも考えていかなければならないと思います。
もう1つは、先端技術がどんどん高度化していってより科学に立脚したイノベーションが求められるといったときに、そのための研究施設とか設備が重要になってきます。ところが高度化が進むと民間企業が自分で全てを持てるものではありません。公的研究機関とか大学を見てみると先端的な研究施設・設備が整備されています。そういった施設・設備を民間企業に共用して活用してもらうことが必要ではないかと思いますし、そのための展開も求められていると思います。
■中小企業にとって第3期基本計画の産学官連携政策はどのような利点があるのでしょうか
上田:科学技術基本計画によって、厳しい財政事情の中で科学技術の予算は着実に増えてきています。また、様々な改革によって、日本の大学、公的研究機関の研究水準は着実に向上しています。それに加え、大学、公的研究機関の産学官連携への意識も相当進んできていると思います。いい研究がどんどん生まれてきているのでそれを企業の作り出す価値創造に結び付けていって欲しいと思います。
各大学、公的研究機関においても連携するための窓口というのは必ず存在しますし、見えない壁というのは徐々に取り払われてきていると思います。連携には、一つには昔からの技術相談という形態も引き継いでいるでしょうし、今ある大学の特許を技術移転するということもあるでしょう。また、基礎的段階から課題設定を一緒になって見つけ解決していくという連携もあると思います。したがって、色々な形態を模索しつつ連携を進めて欲しいと思います。
■大学発ベンチャーのあり方、取り組みについてお伺いしたいと思います
上田:大学発ベンチャーに関しては、先ほども今後はより質の良いベンチャーが生まれてくることが期待されるということをお話しました。
大学発ベンチャーを始めとする研究開発型ベンチャーは、イノベーションの原動力であり、新産業の創出や産業構造の改革に重要な役割を担う存在であると思っています。また、大学発ベンチャーが着実にできてきているところから、今後は能力あるベンチャーを活用していくという視点も重要だと思います。政府が研究開発を行うときに、事業化への意欲が高く、研究開発能力のあるベンチャーを活用していくことも必要です。
起業家精神については、日本は国際的にもそれほど強くはないのではないかと言われます。世界に比べ開業率が低いというデータもありますし、各国に起業家と呼ばれる人がどれだけいるのかという調査があるのですがそれを見ても日本は一番低くなっています。
起業家というのは挑戦する意欲を持つ人たちです。そのような人や事業化への構想を持つ人たちは、たとえ起業をせず研究現場に携わったとしても、良いものを生み出す可能性があります。そのために起業家精神というものも大切であり、育んでいかなければならないと思います。
第3期基本計画からイノベーションということが強調されてきています。イノベーションとは何かというと社会的や経済的価値の創造と基本計画では位置づけられていますが、その価値を創造するにしても、より大きな価値を作っていくことが求められます。より大きな市場を生み出す新事業の創出には、企業も力を入れていらっしゃるでしょうが、ベンチャーの役割が益々重要になってきていると思います。
学生がベンチャーを設立していくことが盛んになっていますが、若いうちにそういう挑戦をすることはいいことだと思います。ただし起業は厳しいものであり、厳しいものだという認識を持って取り組んでいくことが重要です。そのような厳しさに立ち向かう精神を起業スキルとともに大学時代で身に付けていってもらえることが日本全体のためになるのではないかと思います。
大学の中には様々な技術シーズがあると思います。そこで研究している学生、先生方と新しいことをしようと思っている学生とが結びついて、成長力のある新規事業が若い人から生まれてくることが日本にとって重要なのではないかと思っています。
当省関係では「大学発ベンチャー創出推進」という事業があり、42億円の予算で大学発の起業に必要な研究開発を支援しています。この制度を、自分が研究に携わった技術で起業を考える学生にも利用していただきたいと思っています。ただ、申請は大学の先生ができるものなので、学生が先生と一緒になって応募して、研究室で研究を進め、いい技術に磨き上げて特許も取得した上で起業してくれればと思います。
米国ではベンチャー教育も進んでいますが、ベンチャーにとって重要なのは創業チームのフィット感といわれています。様々な能力を持った人が集まり、気心が知れフィット感があるということが成功ベンチャーの秘訣の一つだという教育がなされています。
大学発ベンチャーの一つの形は、大学でよい技術になるような研究が行われて知的財産権化され、創業チームに技術移転が行われ、ベンチャーとして事業が発展していくものです。
大学の先生はアカデミアに生きる人なので、企業家として兼業はできても先生を辞めてまでという方は少ないと思います。大学発ベンチャーができたときその企業を引っ張っていくのはその先生のお弟子さんだったりします。社長になる可能性もありますし、いい経営者が外から来るかもしれません。その企業と大学の先生との関係が残るということが大事だと思います。学生が技術移転の媒体となっていくのが期待される一つの形だと思います。
本日はお忙しい中ありがとうございました。
2006年7月号掲載





