【インタビュー】白金抵抗温度計を限りなく点に、限りなく箔に近づける
─ 高速・高精度・他店同時計測を実現する温度計測─
株式会社ネツシン
設立より白金測温抵抗素子による小型の温度センサに特化、約20年前に小型Ptセンサを開発。さらに、「ごま」より小さい超小型のPt素子を開発し、箔に近い0.2mmの厚さのフィルムセンサを開発。最先端技術からの要望により高速・高精度・多点同時計測の次世代温度計測器を開発した株式会社ネツシン 専務取締役 今村 友亮 氏、技術開発部 小泉 健一 氏に製品と技術について伺った。
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株式会社ネツシン 専務取締役 今村 友亮 氏
技術開発部 小泉 健一 氏
先端の分野で使われているPtセンサ
■御社についてご説明ください
今村:当社は1971年(昭和46年)の設立で、現在の社員は88名です。「ネツシン」とは、「熱信号」ということから付けられました。設立時は板橋でしたが、昭和56年に練馬に、昭和61年に現在の埼玉県三芳町に本社ビルを建てて移っております。
当社のPtセンサ(白金測温抵抗素子)が使われている最先端の分野を幾つか紹介してみたいと思います。有人潜水調査船「しんかい6500」においては先端にあるロボットアームの横のところで海底温度を測るために、また山梨県のリニア実験線においても温度計測に使われています。石油タンカーなどの船舶においては、エンジン管理などの温度計測にはPtセンサを用いることが義務付けられています。航空機の管理においてトレーサビリティを確保した温度計測をするために、当社のセンサ、温度計測器などを導入されている航空会社もあります。東京湾横断道路「アクアライン」においては、風速を計るために当社のセンサが 150個ほど使われています。
創業以来のテーマは、白金測温抵抗素子を「限りなく点に近づける」ことです。さらに、新しいテーマとして表面センサを「限りなく箔に近づける」ことを掲げてきました。
温度センサには様々なものがありますが、安い価格で大量に使われるものには一般的にサーミスタがあります。工業界など、もう少し精度が必要であるとか温度範囲が広いところでは、熱電対が使われています。Ptセンサは、さらに精密に温度を測る必要があるところで使われています。その中でも超精密な温度計測が必要であるところには、他の温度センサに対し温度のトレーサビリティを維持する上で基準となり、国際温度目盛(ITS-90)に準拠する「標準白金抵抗温度計」と呼んでいるものが使われます。これは価格も高いのですが、計測精度も非常に優れたものです。現場レベルではもうワンランク下の温度計であっても、品質管理におけるその会社のトレーサビリティ体系の頂点に位置する温度計のために供給させていただいています。
■御社の製品についてお話ください
小泉:限りなく点に近づけるというテーマの下で、直径0.4mm、長さ3mmの「ごま」より小さいPt素子「MC/MGシリーズ」を開発し製造販売してきました。そして、昨年11月には、セラミック外径0.4mm、長さ1.5mmの、世界で極最小級のPt素子の開発に成功し、さらに一歩点に近づいたといえます。
また、世界最薄の厚さが0.2mmからのフィルムPtセンサを作ることができます。これは新札の1万円札2枚と同じ厚さになります。先端の色が変わっている部分が感温部であり、コイル状に巻いたPt線が入っています。
平成7年に、埼玉県技術奨励賞を受賞した高温用標準センサの「HTS-21-1000」は、1000℃まで使えるPtセンサで、保護管が石英ガラスまたはアルミナ管になっています。独立行政法人産業技術総合研究所との共同研究・開発によるもので、当社で製品化しています。ITS-90に準拠しており、精度が高く高温まで測定できることで評価を受けています。安定性は±0.01℃で、イギリス、イタリア、日本を始め8カ国の国立研究所で使われています。
常用標準白金抵抗温度計としては、温度範囲がそれぞれ30℃、160℃、230℃、420℃、660℃まで対応しているNSRシリーズがあり、保護管にステンレスを用いることにより安心して使用できます。
高速・高精度・多点同時計測の温度計測を実現した温度計測器「NX-2100」も開発しています。今までに紹介しました、点に近づいた、箔に近づいた温度センサを用いたとき、当社製のPtセンサの特徴を十分に引き出せる計測器が世の中に存在しませんでした。そこで、当社のセンサを活かすためのスペックを持った計測器を開発しました。精度が高く、計測周期が速い上に多点同時に測れますので、温度分布の変化を高精度で捉える計測システムが期待できます。
また、米国Fluke社の一部門であるHart Scientific部門とも提携しており、計測器類・温度恒温槽などの製品も取扱っています。
その他、温度計測器・温度センサの「校正業務」を行っており、各種ニーズに対応しております。
Fluke社 恒温槽
アタッチメン熱容量を小さくすることで正確・高速に
■限りなく点に近づけ、限りなく箔に近づけることにより得られるものは何ですか
今村:設立当時は、世の中の主流は熱電対であり、その構造は異種金属を先端で小さく溶接して温度を測るものです。それに対し白金測温抵抗体の素子は、外径が2.0mmとか2.8mm、長さが15mmとか20mmという大きく長いものでした。素子すなわち感温部が大きく長いほど熱容量が大きくなり、温度変化に対する応答性が遅れ、また感温部の平均値が温度として計測されます。Ptセンサが出始めのころ、熱電対に比べて使い勝手が悪いといわれていたのは、大きいがゆえであったわけです。当社はPtセンサの本来持っている精度の高さを残したまま、点に近づける、箔に近づけることを求め、熱容量を小さくすることによってレスポンスのいいセンサの開発を目指してきました。素子が小さくなれば熱容量が少なくなり、高速応答ができるからです。
箔に近づけるのは、表面温度を測る場合なるべく表面近くに感温部を持っていこうという考えです。金属のブロックの中に素子を入れると熱伝導などの問題があり応答性が悪くなります。薄くするためにはフィルム内に白金コイルを封じ込むことにより実現することができました。
世の中のニーズも温度が測れればよいというものから、ものを作る上でより正確に、速く測りたいという要望が多くなり、白金測温抵抗体が広く使われるようになってきました。ただ、使いたい要求がある中で、やはり価格が高いため使われなかったり、価格競争で叩かれたりもしました。
そのような中でも、当社は小さい素子の開発を進めていきました。その当時は小さい素子を作っても、世の中にはまだ受け入れられないことも分かっていました。そして、今から 20年ほど前に開発したものが、今、世の中のニーズにマッチングしてきたわけです。当社としては世の中の認識を変え、ニーズを変えようという意味で小さい素子を開発してきました。今は半導体関連やバイオ関係を始め、小さくて正確なセンサを求める分野が増えてきています。
世界最薄級フィルムPtセンサ
■開発にはどのくらいかかったのでしょうか、また、難しいかったところはどこですか
今村:外径0.4mm、長さ3mmの「MC-0403」では開発に3年ほど掛かっています。
難しいところは一つに碍子があります。碍子は外注で作っていただいているのですが、外径0.4mmのところに二つまたは四つの穴を等間隔にストレートで120mmの長さであけることがなかなかできませんでした。
素子の製造は、髪の毛より細い白金線を顕微鏡を見ながらコイル状に巻き、それを外径0.4mm、長さが3mmというシャープペンの芯より細い碍子の中に入れていくことを手作業でおこないます。0.09mmの碍子の穴に細い白金線を通していくことはかなり難しいものです。そのときに、コイルを潰さずに傷も歪もあたえないでストレートに通していかなければなりません。
碍子の中にある白金コイルは、数百度での温度計測をするとき熱で白金コイル自身が膨張し収縮します。そのため、金属疲労が起き断線することがあります。それを防ぐことが大きなノウハウで、これを開発するのに3年かかったわけです。
フィルムPtセンサは、0.2mmの厚さの中に白金コイルを入れています。白金は汚されてしまうと特性が変わってしまいますので、白金と相性の良い材質を見つけるのが大変でした。
最小のPtセンサにしてもフィルムPtセンサにしても、当社はお客様のオーダーメイドで作っています。
センサが小さく、応答が速く、精度が高いものは、ほとんどが半導体の分野からの要求です。例えば、液晶テレビのガラス基板の温度分布を測ることにより、製品品質の安定した製造工程の確立がなされました。携帯電話では、メモリのチップが小さくなってきていますので、温度管理も小さいセンサで精度が要求されてきます。クリーンルーム内や半導体製造装置などに求められる精度では、1000分の何度で測りたいというお客様が、ここ数年の間で増えてきています。
■次世代温度計測器と謳っています「NX-2100」についてお話ください
今村:この製品を開発した経緯というのは、先ほどもお話しましたように当社のPtセンサは小さくて薄いものでありレスポンスが速く、お客様から計測器がついていかないという話があったからです。市販の計測器ではサンプリングタイムが長いため遅れが発生して、うまく測れないという声が多くなってきたわけです。
当社の小型Ptセンサで測るための計測器を作ってもらうために、あらゆる国内メーカーに声をかけてみました。センサの性能に合うもので、高精度、高速度、多点同時計測の3つの条件が満足できる温度計測器を作っていただけないかと各メーカーに聞いてみましたが、答えは「ノー」でした。当社も台数はそれほどでないと思っており、採算の面からも断られたのだと思います。業務提携しているFluke社のHart Scientific部門にも話してみましたが、そこでも作ることはしないということでした。しかたがないので自分のところで作ろうということになり、当社と、㈲田澤R&D技術士事務所、産業技術総合研究所の3者で共同開発しました。
次世代温度計測器 「NX-2100」
来年10.5秒周期・±3mKで計測
■どのような特徴、技術なのですか
小泉:「NX-2100」は、8ポイント(最大24ポイント)を同時に最速0.5秒で測ることができ、精度は最高±3mK(±0.003℃)で温度を計測します。このように、高速、高精度、多点同時という三つの性能を高い次元で、バランスよく実現しています。
今でも、例えばブリッジ計のように精度の良い温度計測器もあったのですが、一点を測るのに10秒、20秒とかかっていました。計測器としては非常に優れているのですが、実際の温度は変化しており現実の温度を測っているとはいえません。また、高速の温度計測器もありますが、精度が0.1℃位しかなくお客様の要望からは二桁ほど足りません。高精度計測と高速・多点同時計測を同時に実現する計測器は世の中にありませんでした。当社のセンサは小型で高い応答性を持っていますが、それを活かして測る計測器がなかったということです。
「NX-2100」では、温度分布の変化を高精度に捉えることが期待できます。具体的に、素子の寸法により温度の測定がどれほど変わってくるかを見ていただきたいと思います。
図では、0.5mmの外径の保護管に対し外径が0.4mm、長さ3mmの素子が入っており赤い色で現しています。それに対し、保護管外径3.2mmはオレンジ色で現していますが、見ていただいただけで素子の大きさが違うことが分かります。大きさが違うということは、素子すなわち感温部分の熱容量が異なることになり、熱容量が小さいということはそれだけ温度変化に対し瞬時に応答できるということです。
図の下のグラフは、それを現しているグラフです。通常の空調が存在する室温を、径の異なる4種類の測温抵抗体で温度計測をしました。図に示した白金測温抵抗体の色とグラフの線の色とを合わせていますが、一番温度変化が計測されている赤い線が外径0.5mmの測温抵抗体で、瞬時に温度を感じ上がったり下がったりしています。あまり変化の無いオレンジ色の線が外径3.2mmの測温抵抗体で、余り温度変化がないように見えますが実際は赤い線のように温度は変化しているわけです。
これまでの温度計測のニーズは、オレンジ色で表されている温度の計測をされていたことになります。さらに、3.2mmより太い温度センサを使っているお客様は多くいらっしゃいます。4.8mmのセンサでは、室温をモニターしていても常に一定になり、温度の変化はないという判断になってしまいます。
細いセンサで測りますと実際に温度は変わっていることが分かります。製造工程においても瞬間的に温度は変わっていっているわけですが、それを鋭敏に拾えるかどうかが問題になってきているようです。「NX-2100」と当社の小型のPtセンサとの組み合わせで今まで安定していたと思っていた温度が実はかなり変化していたという、『今まで見えなかった温度が見える』ようになったわけです。
センサ外径の比較図と径別の温度計測グラフ
■開発において大変だったことは何ですか
小泉:高精度で速い温度計測という世の中に無いものを作るので、そこに独自の技術が求められました。温度センサは、一定の電流を流しセンサ両端の電圧より求めた抵抗値より温度を検出します。抵抗検出する部分の回路はアナログ回路になりますが、アナログの非常に高いレベルの技術が求められます。逆に計測器としての使い勝手のよさ、たとえばパソコンとインターフェースするという部分はデジタル技術になります。アナログの部分とデジタルの部分を、高いレベルで融合させなければならず、当社だけの技術ではできない部分でした。
今までは温度センサのメーカーは既定の温度計測器を提案するだけでしたが、この計測器はセンサメーカーが作ったということでは初めての製品になります。
熱容量を小さくしていけば精度の高いデーターが得られることは分かっていましたが、小型のセンサが開発されたおよそ20年前はこのような温度計測のニーズも無く、このような計測器を作る発想はありませんでした。それが、7年ほど前に高精度、高速の要求が有るという話が出始め、その後本格的に開発に取り組み完成までに3年ほどかかりました。
■今後の展望についてお話ください
今村:温度というのはものづくりの中で非常に大きなファクターであると捉えています。醸造業においても温度管理が大切ですが、今までは職人が手で触れるなど勘と経験でやっていたことも、熟練した職人が少なくなってきている現在は温度の管理に機器を使って制御するようになっています。
食品業界や製薬メーカー、あるいは半導体の分野においても、温度に対する認識が変わってきていることが実感されます。ものを作る上での要求として0.01℃とか 0.001℃の制御をしなければならないことが出てきています。そのようなところではPtセンサでの測定が必要になってきますので、そのニーズに応えるために製品を開発し販売を行っています。
小さいセンサは色々な形にアッセンブリすることができますので、お客様のご要望に対応することができます。たとえば、半導体チップの中に素子を埋め込んで使用したいという要求とか、バイオ関係においてサンプルの中に素子を入れて提供するなど、小さくすることによって測りたいところに適応する形でご提案させていただくことができます。
日本のものづくりのある部分は、温度制御に対してまだまだ高いレベルを要求してくると思っています。そのために、独自の技術力により信頼性の高い特徴のある温度センサ並びに応用製品を多種多様にわたる産業界に的確にお応えし、基礎的な研究は途切れないようにしていきます。
次の製品としては、1000℃の高温白金抵抗温度計を1200℃まで、0.1℃以内で測れるものも開発を進めています。また、ITS-90に準拠した、当社の「HTS」「NSR」という標準温度計をさらに小さくする研究を進めています。
小さい素子をアピールして市場の拡大を伸ばしたいという希望があります。その中で、「NX-2100」を含めて小型センサを使っていただくことにより、温度計測の認識を変えていただこうと思います。温度というものはもっと速く、正確に測れる、ということをアピールしていきたいと思っています。
高温用標準 「HTS-21-1000」
常用標準NSRシリーズ
「NSR-163/300/660」
本日はお忙しい中ありがとうございました
ますますの発展を期待しております
メカトロニクス2007年4月号掲載






