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2009年4月10日 (金)

【インタビュー】産学連携は産業人と学者の連携

 ─ キャンパス周辺の産業振興組織と連携 ─
財団法人理工学振興会 常務理事 泉 洋一郎氏
戦後の昭和21年に産学連携の下に産業と科学の発展を図るために設立され,その後研究助成事業にも力を入れてきた理工学振興会(東工大 TLO).TLOの事業もおこない共同研究開発も進める財団法人 理工学振興会 常務理事 泉 洋一郎氏に3つの事業についてのお話を伺った.

★ご好評をいただいた記事を再掲載いたしました★

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財団法人理工学振興会 常務理事 泉 洋一郎氏

■財団法人理工学振興会は歴史も古いとお伺いしていますが,沿革からお話ください.

泉:戦後復興のために大学の先生方が技術を起こして産業を立たせようとして,昭和21年の9月に前身である財団法人工業振興会が設立されました.大学の組織だけでなく,横の繋がりも作るような組織を目指し作ってきたわけです.途中から卒業生や先輩方の寄付もありましたが,大本のお金は先生方が出されました.設立趣意書に「学者と産業人との緊密な連携の下に産業の生々発展に遺漏なきを期し科学技術の真価を発揮させる」とあるように,60年前から産学連携を目指していました.我々がいま活動をするにあたっても,この原点を忘れないように心がけています.
昭和62年に(財)理工学振興会に改称・改組して,研究助成事業を開始しました.
平成11年8月には第2期生となりますがTLOの承認も受け活動を開始し,平成16年には経済産業省からスーパーTLOに選定され他の承認TLOやTLOを持たない大学の技術移転活動支援や人材育成を行なってきました.
組織としての大きな仕事は研究助成でこれが活動の中心となり,次がTLOの事業です.TLOについて私どもは広義にとっています.役所などからのTLOに対するアンケートなどでは,特許の発掘,申請,会議の数,売れた件数などを聞かれますが,これは技術移転における1つの結果あるいは手段だと思っています.次が共同開発部門の活動で,産と学のコーディネーションだけでなく研究の中にも積極的に入っていっています.
この3つが我々の大きな事業となります.

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■研究助成事業についてもう少しお話ください.

泉:研究助成ついては,最初の工業振興会のころは先生方と産業界の共同研究とそれに伴う資金の確保などをしてきました.そのうち大学の方も科学技術研究費なども充実して来ましたので,昭和62年の改組以降は第2期として捉え,若手の育成に力を入れるようにしたのです.
助成にも2種類があり,1つは「研究助成」として,30歳以下の大学院生,助手,研究生を対象に,個人の理工学に関する基礎研究を対象としています.もう1 つは「教育研究助成」で,高校・高専の教員を対象としています.教員が独自の教材を作ったり,調査したりするときの経費を助成していこうということです.
この助成は全国区で行なわれており,大学も東工大だけではありません.昭和62年から平成16年までで,助成件数は353件,58校におよび,助成額も1億を越えて助成させていただいております.
この事業は賛助会員の会費などから行なわれていますが,TLOの活動の中でなるべく余剰金が出るようにしてそれを回しています.これはTLOをスタートさせたときに決めたもので,TLOの活動の目的で他のTLOと違うところです.

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TLOの事業はどのように進められていますか

泉:産学連携というのは,産業人と学者の連携であって会社と大学の連携ではないといつも言っています.あくまでも先生方のシーズを社会の中でいかに活かしていくかということが原点だと思っています.したがって知的財産も必ずしも特許だけではなく先生の持っているものは全て知的財産であると思います.TLOも特許流通業ではなく総合サービスであると思います.
私どものTLOはきわめて大学,学者寄りの活動をしているといえます.というのも,設立の精神,歴史から先生方のために動くという感覚があるからです.
東工大では産学連携推進本部が知財本部であり,ライセンス関係と共同研究関係において産学連携を進めています.私ども理工学振興会はライセンス関係を中心に共同開発の面もコーディネートしています.
特許出願・ライセンスの体制をもう少し詳しく述べますと,まず大学の教員とはコンタクトを持ち,先生方の発明を把握し発掘したりします.ですから先生方の研究はスタッフの誰かが知っているようにしています.
大学とは特許を出願するときに,先行技術調査などを行い発明の評価をします.実際に大学が出願・審査請求するときは,明細書の検討,審査請求の検討,特許事務などでお手伝いをしています.以上のような人的支援のほかに,大学が企業とライセンス契約をするときの業務を受託しています.まず,特許の早期開示をしてマーケティングを行ないます.希望する企業があればライセンスの交渉をし,契約案を作り,契約後のフォローも行ないます.
特許出願とライセンス契約の数は,平成11年から平成16年まで579件の出願と,111のライセンス契約を理工学振興会はしています.平成16年からは大学が出願し,ライセンス契約をしていますので数値が下がっています.

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■TLOを進めるために心がけているのはどのようなことですか.

泉:やはり日本の産業を下支えているのは中堅・中小企業であり,なかんずく元気のいい開発形の企業だと思っています.したがって私どもは,キャンパス周辺の自治体の産業振興組織と連携をとっています.たとえば大田区産業振興協会,横浜産業振興公社,川崎産業振興財団などをはじめ多くの団体に,人を決めて定期的な接触をしています.相手の方も大学の担当が決まっていて,他の団体の様子を聞かれることもあります.情報の交換をするような環境を作っている中で研究を必要としている企業の話しが出たり,紹介を受けたりします.そうでなければTLOは中小企業の情報はなかなか得られません.中小企業も大学というと敷居が高く感じられるでしょうから,私どもが中に入り大学は敷居が高いという意識を取り除いてあげる必要があります.

国々における技術レベルにおいて産業界は大学のレベルを超えられません.また大学は学問・研究が目的ですので,常に高いレベルの研究をしていることが大事だと思います.企業の方がこういう技術を使いたいといわれたときに,その技術の基礎はもう研究しています実用化のために共同で取り組みましょう,といえるのが理想と思います.
企業からの相談において,私どもは色々じっくりコーディネートして最適の出口をお勧めするわけです.たとえば,ある相談に対して先生に相談するだけで解決するものもありますし,ものによっては6ヶ月ほど定期的に指導してもらうとよいというものもあります.また,共同研究をしたほうが良いときもあります.内容を把握し企業と先生と私どもとの3者で話した上で最適な解を提示するのが私どもの仕事となります.
図ではコーディネータとなっておりますが,私どもが行なっているのはビジネスクリエータあるいはプロデューサといったほうがいいかもしれません.

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研究開発事業についてお話ください.

泉:研究開発事業では大学発事業創出実用化研究開発事業(マッチングファンド)を積極的に推進しています.これは経済産業省がNEDOに委託してやっている事業で,大学の技術を早く事業化するためにいいテーマであれば補助するというものです.私どもでは大学のシーズを早く事業化するために,資金提供企業を探して提案しそれが受け入れられれば,企業が出す研究費の倍を助成してもらえるのです.
私どものコーディネータは10数名おり,自分の専門知識があるようなところの企業を担当します.企業における研究開発などでもプロジェクトリーダ的な方がおられますが,それをコーディネータが行なうわけです.通常,企業が大学と共同研究すると大学の先生の方が偉くなってしまいますが,それをコーディネータが均等に持っていくようにします.たとえば先生方にとっては分かりきっていることでも丁寧にデータを取り,実用化するにはこういうことが必要であることを先生方に分かっていただくように持っていきます.これもまた私どもの仕事なわけです.

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大学発ベンチャーはどのくらいあるのですか.

泉:東工大発ベンチャーとしては現在30数社ありますが,その中で理工学振興会が関わったのは6社になります.熱拡散率測定装置,動画電話,次世代管理支援システムなどを事業として起業しています.
東工大の同窓会組織に蔵前工業会という社団法人があり,そこの正式機関として「蔵前ベンチャー相談室」が設けられ,卒業生の協力の下ベンチャー支援を進めています.

産業界との共同開発は歴史があると思いますが,最近ではどのようなものがあるのですか.

泉:いくつか紹介してみたいと思います.1つは精密工学研究所佐藤誠教授による研究成果の3次元力覚ディスプレイ:SPIDARを,企業がパーソナルユースの力覚(触覚)デバイスとして製品化した「3次元グリップ装置」があります.これは小形8軸コントローラの開発により装置導入を容易にし,グリップ筐体も可搬性の高い形状を実現しました.インターフェースにUSB2.を採用し,PCとの通信を1KHZ以上にし,力覚フィードバック演算処理を高速にし,触覚性能を向上させています.触れる3次元ユーザインターフェースは手術の仮想体験といった医療現場への導入口を作りました.発売開始は平成13年の5月で,14年には等身大システムを受託開始し,海外展示もおこなっています.
次に表面形状測定装置SP-500があります.これは小川研究室と東レエンジニアリング株式会社が共同で,物体表面の3次元形状をナノメートル単位の高精度で,高速に測定する技術を開発したものです.小川研究室の帯域通貨型標本化定理に関する研究成果を活用し,製品化したものです.光干渉を利用し,物体表面の微細3次元形状をナノメートル単位で測定するもので,僅かの数のデータから精度よく高さを求める画期的なアルゴニズムを発明し,このアルゴニズムにより計測時間を従来の10〜20倍に高速化しました.
また,メカトロニクスとは関係がありませんが,ハイドロキノン使用した美白剤もあります.即効型地域新生コンソーシアム研究開発事業よりハイドロキノンを使用しその物質的な不安定要素を克服した美白剤が研究され,化粧品の原料として製品化されました.平成15年に理学振興会と有限会社新潟環境クリニックが特許実施権契約を結んでいます.

最後に今後はどのように展開していこうとお考えですか.

泉:今でもそうですが,気楽に御利用していただけるTLOとしてさらに活動の幅を拡げていきたいと思っています.技術に関することであればどんなことでも相談させていただける,「よろず技術相談窓口」として御利用いただきたいと思います.また先生方の特許は早期開示し,旬の内にライセンス契約をしたいと思っています.大学の特許はピンポイントのものが大部分ですので,早くライセンスして,企業のかたに周りを固めていただきたいと考えてます.その意味でも旬を活かしていけるように,情報の提供をしていきたいと思います.

本日はお忙しい中ありがとうございました.

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3次元グリップ装置

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表面形状測定装置SP-500

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ハイドロキノン使用した美白剤

メカトロニクス2006年4月号掲載

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