【インタビュー】水に関する技術・研究を売る
─ 流体技術をコアに健康・医療、水質環境の分野にも展開 ─
株式会社西日本流体技研
佐世保重工業からスピンアウトした船型研究の技術者集団がベンチャー企業を設立。回流水槽を使った船舶模型試験から始め、流体技術をコアに流水バスやリハビリ装置、水質改善装置など違った分野にも展開する株式会社西日本流体技研 代表取締役社長 松井志郎氏に水をテーマーにした技術と事業展開について話を伺った。
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株式会社西日本流体技研 代表取締役社長 松井 志郎 氏
中手造船所に回流水槽の実験を提供
■設立の経緯についてお話ください
松井:当社は、前社長の小倉理一氏をはじめとする7人の技術者で1979年に設立しました。7人とも佐世保重工業の船型研究のグループでしたが、設立の前の年に大規模な合理化が進められ7,000人ほどの従業員を2,000人ほどにしていくという方針が出されました。私たちは造船所で、船の抵抗を小さくするとか推進力の効率を良くするなど、船の性能についての研究をしていました。しかし、若い技術者も抜けていくようになり、それまで続けていた研究もできなくなってきて、今までやってきた技術がばらばらになるのももったいないということもあり7人の技術者で、回流水槽を使った船舶模型試験を中心とした会社を設立することになりました。もとより、私たちには会社運営の資金も知識や経験もありませんでしたが、初代社長の石井千里氏に相談をし、会社を創っていただくことになり設立に関わってきました。
最初は我々が設計した水槽を外注で作り、水の流体に関する研究や試験をすることを始めました。国内の造船所ではこれくらいの需要がありこれくらいの受注はとれるだろうと、マーケットを調べ計画を立てて出発したわけです。しかし、造船というのは浮き沈みが激しいということは分かっていましたので、コア技術を基に船以外の事業も広げていきたいと思い、最初から努力をしてきました。
■設立されてからはどうだったのでしょうか
松井:造船所は規模でみると大手の造船所、中手の造船所、小手の造船所と段階的に分けることができます。中手の技術的な部分は、大手の造船所の系列に入っているのが当時の状況でした。中手造船所は建造能力としては大手と同じようなことができましたが、設計や開発においてはまだ人材が不足していました。そういうところにおいて、私たちもお手伝いをさせていただいたということです。
中手造船では開発が旺盛に行われ、最初から予想外の受注があり順調なスタートができました。当社がどこの系列にも属さないことと、中手の開発意欲が熟していたので多くの受注がいただけたのだと思います。
中手の造船所の意欲はさらに盛んになり、自分のところで研究所を持とうとするようになってきて、当社の回流水槽を求めるようになりました。当社も回流水槽を要望どおり設計製造したものを中手造船所に納め、試験ができるようにお手伝いしてきました。そのため、中手造船所からの船型研究の試験の依頼はなくなってきましたが、いずれそうなっていくであろうと感じていましたし、個々の造船所の流儀で試験をしていただいた方がよいだろうということもあり、お手伝いしたわけです。
中手造船所からの試験依頼はなくなりましたが、代わりに小手の造船所からの試験依頼が増えてきました。それと先ほどもいいました船以外の仕事を広げていきました。
回流水槽
保針性能の検討
斜航試験
分社化を進め回転型企業発展を
■船以外の仕事とはどのようなものですか
松井:大まかに言って、人の生活に関係した分野です。
もともとは、船を浮かべて実験をしていた水槽を風呂にした、というのがスタートです。一つが健康関係への展開で、水の流れを利用してできたのが流水バスで、人の身体の柔らかさと流体工学を結びつけて開発しました。二つ目がスポーツ科学関係への展開で、科学的データに基づく精度の高いトレーニングプログラムの開発や、競技用水着の水に対する計測をおこない評価を行っています。三つ目は医療、介護、福祉関係への展開で、水による浮力・抵抗を利用したトレーニング装置やリフト浴、車椅子特殊浴槽など様々なタイプの製品を開発しています。四つ目は環境関係への展開で、海の流動環境を再現した水理実験施設で水生生物や植物の成長の観察や、水槽内に設置された測定機器で物理的・科学的なデータを収集、解析することができます。五つ目は水産関係への展開で、閉鎖環境方式による海産魚介類の陸上養殖システムを開発し実用化しています。
これらは、当社のコア技術で開発されたものを基に、FELCOグループのジャパンアクアテックが技術を引き継ぎ、また、新しい製品の開発を行っています。
また、海洋調査研究および海洋環境アクセスなどの受分野は、同じグループの海洋開発技術研究所で行っています。ここでは、海洋環境の再現、海や川などの環境改善、海洋調査などに取り組んでおり、無線水中ロボットなど海洋機器の開発・製造、水環境改善装置の開発・製造に取り組んでいます。
アクアエレガンス
回流水槽における水泳フォームの観察
■FELCOグループというのはどのようなものなのですか
松井:FELCOグループというのは、当社の研究開発から生まれた技術を応用し分野別の技術をもって独立した会社のグループです。
会社は事業の柱になるような技術の種ができれば、それを核にして経営規模を拡大していきますが、管理する体制や職種が必要になります。従業員が50人以下であれば、社長は企業の全てを把握することができますが、50人を越すと把握する状態が保てないと思っています。その意味で、50人単位の会社が最も活動的であると思います。
先ほどのジャパンアクアテックであれば水と生活関連分野、海洋開発研究所は水と環境の分野というように、異質な分野ができると分社化をしてきており、分社化した会社は数本の柱を持っています。ほかに、水の浄化に関する研究と試験の受託をしている水環境科学研究所、ベンチャー企業の技術開発支援、起業家の支援サポートを行っているベンチャーテクノサービスがあります。
私たちはこれからの企業のあり方として、固有の技術に特化した企業群による回転型企業発展を提案しています。大きく成り過ぎて柔軟性を欠くよりは、素早く動ける企業であり続けたいと思っています。
FELCOグループは、“水”をキーコンセプトに回転型企業発展を目指し、技術と人と環境の融合を目指しています。
「流す技術」とその応用
■「流体技術」についてご説明ください
松井:水の流速、圧力といった物理的アプローチをもって技術といっています。それ以外にも水の中の音だとかマイクロバブルなど多層流体も関わってきます。流体技術は、水を流す、空気を流すという「流す技術」ということがコアになっています。その中で、模型実験をするということが私たちのベースになっているわけです。
私たちの「流す技術」というのはポイントが三つほどあり、一つは色々な流速で流しても水面がフラットになることです。二つ目は、流速の一様性です。流速の変動を1〜2%の違いで流すことができ、その流速が一様であるということです。三つ目は、普通水を循環すると気泡が混ざるのですが、気泡の混ざり方が非常に少ないことです。
ポンプで水を流せば水は流れるじゃないかと思われるかも知れませんが、この三点をクリアしながら水を流すと結構な設備になってきます。私たちも自ら設備を造って実験をしているので、お客様からどういう要求があるかが分かります。お客様がどういう“ もの”を創りたいか分かると、どういう“こと”を測ればよいかということが分かるということです。
このコア技術により、水に関する測定はほとんどできますが、水の性質、化学的な捉え方というものについてはまだ手を出しておりません。たとえば、水の中にどういう化学物質があるかとか、分析に近い分野はまだやっていません。
■流体に関するコア技術の、他分野への応用にはどのようなものがありますか
松井:古い話になりますが、ダム、水路など河川構造物の設計のための水理実験、いろいろなゲートの実験というものがあります。例えばフラップゲートの場合、ゲートの上流と下流の水深を決めるためのもので、私たちの回流水槽にゲートを入れ片方に圧力をかけると水位が上がりどのように設定をすればよいかが簡単に分かる実験です。
先ほどの流水バスについては、ただフロに流れを作るというだけでなく、どのような効果があるのかということを科学的に実験してみました。脳波を測る先生と共同で実験をし、感情の分析や、アルツハイマーの傾向が有るか無いかということも分かりました。このときは色々な計測をし、水の代わりに海水を使ったらどうかとか、温度はどのくらいがよいのかなど、色々なパラメータで色々な実験をしました。病院で使うリハビリ装置は、その実験を基に病院と一緒に開発したものです。これらはジャパンアクアテックが開発して、製造・販売しています。
タンカーの事故などで海水に油が流れるときにどのような流れ方をするのか、などの実験・研究も行いましたが、最初は当社しかないということで研究委託が来たわけです。潮流とか風や波が有る条件で、油を止めるにはオイルフェンスの長さをどれくらいにしたらよいか、などの実験もしました。この事業は現在、海洋開発技術研究所で行っています。
フローミル
新事業の成長には10年の辛抱が必要
■ コア技術を基に新しい製品を開発し、販売するまたは事業化する上で大変だったことは何ですか
松井:コアの技術から新しい製品を考え、たとえば健康関係の分野に入っていったときは、最初は当社で研究・開発しデザインして試作をつくり、新しい会社を作って販売をしていきました。新しい分野で立ち上げていくには10年掛かり、その10年間というのは根気強くつづけていくしかありません。片方が倒れたときはもう片方にも多大な影響がありますので、その時は私の前の社長が行っていましたがどうなるのかと思ったことを覚えています。相当な努力がないとひとつの事業を起こすことはできないということだと思います。その頃は健康志向というものがそれほど強く無かったということもあると思います。それが社会も変わってきて、健康への志向が増えてきました。ニーズがありそうだという製品を思いついて、それが売れなくても諦めてはいけないということだと思います。
またこれは非常にうまくいった例ですが、スクリューのキャップに羽根をつけた「PBCF」というスクリューがあります。スクリューのキャップを中心にして強い渦ができて、負圧が発生して効率が悪くなります。これに対してアイデアがあり、実験をしたところうまくいけそうだということになりました。船によってスクリューの形や大きさが違いますので、設計・開発と水槽試験を当社が行い、製作はミカドプロペラが、販売元は商船三井が行うことになりました。
3社の共同開発で特許も3社共同で取得しています。この開発にも商品になるまで数年かかりましたが、商品になってからも元が取れるまでは簡単ではありませんでした。ただ、商船三井が多くの船を所有していますので、それに優先的に採用していくことができました。
このスクリューを装着すると4〜5%効率が良くなるという省エネ効果があります。燃料代が高くなるにつれて利用されるようになり、現在は1,000隻以上の実績があります。
プロペラに関するその他の実験
左:気泡吹き出しによるプロペラ流の軌跡
中:個体トレーナーによるアスターン状態における流れ
右:可変ピッチプロペラのスピンドルトルクの計測
技術の融合で水の環境に貢献
■ 他にも新しい商品についてご紹介ください
松井:先ほど言いました、閉鎖循環方式による海産魚介類の陸上養殖システムの実用化として、とらふぐの陸上養殖を進めています。これは、ジャパンアクアテックが長い年月をかけて開発したシステムです。
陸上養殖システムは10年以上も前から開発をスタートしたもので、これも前社長のアイデアで魚を陸上で飼い水をいつもきれいにしておけば海を汚さなくなるし、魚にとってもいい環境で飼えば成長も早いだろうという、海を守り、魚を守り、人を守るという発想から出されたものです。
新しいものとしては、研究室用のマイクロバブル発生装置があります。これは、自吸旋回方式による気泡発生を採用しており、吸い込みながらバブルを発生させるもので、空気ばかりではなく吸い取り口にある気体を入れてやればその気体のバブルを作ることができます。また、間にプランクトンネットなど決まった大きさの隙間を入れると、ある大きさのバブルだけがその層にたまるということもできます。 海底底質改善装置は、海水を電気分解することによりできる水酸化マグネシウムを電極に晶析し、海底に沈殿させると、酸化されていた海底が少しアルカリの方向にいってヘドロ分解性バクテリアが生育する条件をよくし、硫酸還元菌を抑制するものです。太陽電池で電気を供給することによって、安価で環境に優しい底質改善がなされるので、養殖場などで使えると思っており、もう少しで商品化していく予定です。
海に関わる国際的な問題として、バラスト水のプランクトンのことが大きな問題となっています。日本のような資源輸入国が資源輸出国にいく場合、空の船には海水を積んでいき輸出国の海に海水を排水し資源を積みます。その排水した海水に様々なプランクトンなどが入っており、今までいなかった生物が定着してしまいます。そうならないためバラスト水にいるプランクトンや菌などを処理しなければなりませんし、処理できる船を造らなければならないという条約ができつつあります。そのため、バラスト水浄化の装置を開発しました。これは船に海水を積み込むとき、キャビテーションを発生させそのショックを利用してプランクトンを殺すというものです。
■ これからの展望についてお話ください
松井:ここ2〜3年水の環境に力を入れようということで、その種を作りつつあります。今も話しました新商品は全て環境に関わるもので、いくつかは実用化になりつつある段階ですが、これをもっと広げていきたいと思っています。また、領域の違うところで我々のできるものを創っていきたいという思いがあります。いま盛んにいわれているのが、水工、農工、医工といった連携ですが、私たちの軸足の範囲で他の分野と連携していきたいと考えています。ハイテクとかこの分野と決めるのではなく、役に立つことがあればどのようなところでも仕事をしたいと思います。今までもどちらかといえば他でやっていないような仕事をしてきましたが、これからも出来上がっているような業界、分野ではなくニッチな分野を目指したいと思っています。最初に話したように技術と人と環境の融合が大切だと思いますし、そしてニーズと私たちの持っている技術との融合、違った分野との技術の融合を図っていきたいと思います。
今後いろいろな技術は、韓国、中国に移り、さらに東南アジアに移っていくと思います。そのため、今のうちに日本のやり方、技術を世界に広めていきたいと思っています。私たちの技術を日本だけでなく、海外にも広げていきたいと考えています。
本日はお忙しい中ありがとうございました。
今後のご活躍を期待しています。
知能水中ロボット「ウォーターバード」
メカトロニクス2007年3月号掲載






