【インタビュー】我が国発イノベーションの実現を
─ 社会・国民へ成果の還元をする科学技術を目指す ─
文部科学省科学技術・学術政策局
第3期科学技術基本計画が示され2010年までの5ヵ年に向けて動き始めた.第3期基本計画の概要と,ものづくりに対する施策などを,文部科学省科学技術・学術政策局 計画官 内丸幸喜 氏に伺った.
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■第3期科学技術基本計画の特徴を第1 期,第2期との違いを比べながらお話ください.
内丸:第1期について簡単に話しますと,科学技術基本法が1990 年代半ばにでき,5ヵ年計画で進めることが決まりました.第1 期の計画で主にやったことは,科学技術を進めるには何が必要かということを挙げていきまして,それが今の科学技術基本計画のベースになっています.同時に 5年間の投資総額17兆円が示され様々な施策が進められました.
第2期は世界の中で競争が厳しくなっている状況と,日本自身も贅沢にお金をつぎ込めるという状況でないという中で,戦略的な重点化というものが相当強く指向されています.特に重点4分野といわれるライフサイエンス,情報通信,環境,ナノテクノロジー・材料に力が注がれることになりました.このときにエネルギー,製造技術,社会基盤,フロンティアの4つ分野を含めた8分野が推進分野となっていますが,実際の経費投資は重点4分野を中心に行われてきました.
もう一つの第2期の特徴として科学技術システムの改革が謳われています.分野を設定してお金を投入する際の受け皿として,日本の科学技術の仕組みを変えていかないと,効率的な成果が望めないのではないかという理由からです.そのために,競争的研究資金の大幅拡充,産学官連携の加速,大学などの施設整備などが挙げられています.
第2期は資金的には5年間で約24兆円という目標が示されていましたが,実績としては21.1兆円となっています.この時期は日本も苦しい時期で財政の建て直しなどもあったのですが,他の政府予算が減っていく中では唯一伸びを示している結果になっています.
第3期の科学技術基本計画のベースは,世界的な人材の獲得競争がおきている中で,日本に人材が集まるような世界的レベルを持った国にしていくことです.日本自身も少子高齢化に入っていますので,人材の育成をどうするかが大きな問題になります.
国民との関係から言えば,1期,2期と投資をしてきたがその成果はどうだったのか,また今後の科学技術政策はさらなる投資をしてどういう方向に向かうのかが国民から見づらくなっているといえます.科学技術自身が先端的研究に取り組んでいますので,分かりづらいというところもありますが,そこを国民の皆様に理解してもらったうえで,かつ今後何を目指してやるのかをはっきり示していかなければなりません.そのため第3期では国民へ成果を還元することが重要なポイントとなっています.その際のキーワードとしてイノベーションということが大きくクローズアップされています.
今回は政策目標を設定して,基本計画が目指していることを国民に見えやすくしているのも特徴といえます.
具体的な推進として,第2期にもまして戦略的な重点化を進めることが挙げられます.競争が激化している中で,伸ばせるところを伸ばしていかないと勝てないという考えです.
第2期は重点4分野というように分野ごとに重視するものを挙げていましたが,第3期は分野の中まで分け入って,具体的にどの技術を強化するのかを挙げているのが大きな違いです.その中で戦略重点科学技術という概念が出てきまして,8分野の中の特定技術をピックアップし強化することが大きなポイントとなっています.
科学技術基本計画は閣議決定ですが,それに基づき分野別戦略が総合科学技術会議決定されています.どの分野で何が重要か挙げられた分野別戦略の中心的テーマとして,戦略重点科学技術が定められました.
この戦略重点科学技術を各分野の中で選んでいく基準となっている柱が3 つあります.1つが国民の安全と安心のニーズに応えるものです.2点目が国際競争力に対するもので,科学技術の動きは激しく少し投資を緩めるとすぐに抜き去られてしまうので,今力を入れなければならないものを選んでいこうというものです.3 点目は,これも第3期の特徴なのですが国家基幹技術が挙げられています.第2期にもまして社会情勢の不安が広がっていく中で,国として屋台骨を支える技術をしっかり支えていこうということです.具体的には総合安全保障にかかわるロケットの技術,ものを微細に観測する技術などの5つを国家基幹技術として進めていこうとしています.
科学技術システム改革について説明したいと思います.
まず第3期の特徴であるのが人材の問題です.人材も様々な点から捉えられますが,特に若手の研究者,女性の研究者,海外からの研究者という方々に実力を発揮してもらえる環境をつくり,教育の中で優れた人材を育成していくということです.そのための大学院を始めとする人材育成機能の強化が謳われています.
また科学技術政策が目指すイノベーションとして,新たな発見,発明から生まれてくる日本オリジナルの技術をベースにしたイノベーションの創出を目指しています.大学や研究機関で生まれたイノベーションの種が育つまでは相当な時間が掛り,それをきちんと繋いで続けていく仕組みをしっかり取っていこうということです.これは色々な省庁と連携のもとでやっていくことになります.
基盤の強化については,第2期のときは特に大学の施設基盤強化といわれていましたが,それに加え大型の先端的な研究施設を国で設備をして,産業界を始めとした多くの方に使ってもらう共用の促進をおこなっていきます.これについては現在法案を国会に提出しています.民間の方々にイノベーションの阻害について聞いてみますと,研究・開発にコストが掛るということが挙げられますので,それに対応できるように基盤の整備をしていこうということです.
これらの施策の実施のために第3期は5年間で25兆円という数字が示されています.今後これを受けて総合科学技術会議のもとで努力していきたいと思っています.
第1期〜第3期化学技術基本計画の特徴
■第3期基本計画の中でものづくりが係わるポイントにどのようなものがありますか.
内丸:これまで日本を支えてきた製造業の力として,日本自身が持っているものづくりのシステム,もしくは熟練した技術者の力があるという認識のもとに,今後もそういうものを伸ばしていくためにものづくりの「可視化」という用語が使われています.日本型のものづくりの技術をさらに伸ばすために,科学に立脚したものづくりの「可視化」をしていこうというものです.
ものづくりの現場でなぜ日本のものづくりはうまくいっているのかということを科学的に分析をした上で,なぜなのかという事を共有していこうということです.その中で日本のフラグシップとなる,ものづくりのプロセスイノベーションを作っていこうということです.その中でものづくりに使われる先端的な計測分析技術,精密加工技術の基盤を強化していくことが大きなポイントになると思っています.
その意味でも大企業のみならず,ものづくりを支えている中小企業の役割は大事だと思います.
単なる製造技術という第2期のときのカテゴリーから,今回は「ものづくり」と名前が変わったのもそこまで広げていって日本の強さをもっと伸ばしていくということを,科学技術政策の中でも正面から取り組もうという意思の現れになっています.
第2期の計画の5年間で一番進んだのは産学連携です.大学と企業の関係を強めていって,大学の持っているアイデアを企業の側に示し,企業の方も技術的な悩みを相談したり事業化できるような知恵を得たりしています.
今色々な大学でおこっているのは,日本型のものづくりの強さから学んで新たなイノベーションを図っていこうということです.中小企業の方々がそれと意識していない中で,なぜ強いのかということに関心をもっている研究者の方も多くいます.そういう方の研究と中小企業の技術とをかね合わせて,よりよいものを作っていくようになっていければよいと思います.
また,昔から中小企業の方たちと大学の関係が強くなれば,すごい研究成果が得られるといわれています.非常に特殊な分野で使う研究の器具とか部品,それが無いと研究ができないくらいのものを中小企業のメーカが一品仕様で作り,そのおかげで世界の最先端の研究成果ができたという実例もあります.つい最近では小惑星までいった「はやぶさ」も中小企業の方の技術が支えているところが相当あります.
そういう意味で日本の持つものづくりの凄さというものが,一見違うような先端的な研究の中の随所に出てきています.今後も中小企業と大学が組んでいく中で,日本自身が持つ科学技術の力が出るのではないかといわれています.
その意味でも中小企業と大学,研究機関との間で交流が盛んになれば,お互いに得るものがあると思います.
第3期科学技術基本計画(平成18 年〜22年度)の概要
■いまのお話とも少し重なりますが第3 期における産学官連携の具体的な政策についてお話ください.
内丸:先ほど言いましたように産学官連携は第2期でかなり進んできました.ただいくつか課題があります.
共同研究には大学にある技術シーズを活用するものが多いのですが,もっと研究の最初の段階から一緒に組んでできないものかと考えています.そのため今年から多くの企業と大学の色々な研究との接点を増やすために,産学で連携して様々なシーズのイノベーションに持っていけるような事業を開始しています.具体的には大学が持っている研究成果を企業と交流をする場を作ることにより,最初の段階から企業との共同研究に持っていけるようにすることです.
これまでの共同研究は出来上がったものがあって契約するため,金額も大きく企業の負担が大きくなり距離もありました.それを最初は簡単なフィージビリティスタディから始めて,これはいけるなというものが出てきた時点で,もっと大きな段階に進むようなことを進めています.これは産学官の連携をもっと深く広くしていくものと考えています.
また,地域のエリアにおいては産業界,大学,自治体を含めて,シーズとニーズがうまくかみ合って新しい製品になっていくようなプロセスの整備をもっと進めていただきたいと思っており,地域のクラスターを作っていく事業をもっと拡大したいと思っています.
■科学技術の社会還元についてお話いただけますか.
内丸:社会還元といった場合出口が3つあります.
1つは研究していく中で新たな知識を発見して世の中に知識として伝えるもの,科学の発展ともいえます.それ以外にイノベーションを通じて成果を還元しようというもので2つあります.1つは市場マーケットに製品を出していくというもの,もう1つは社会貢献的な形で出していこうというものです.
第2期は経済活動に結びつくところを強くしていこうとしてきましたが,第3期ではそれに加え安全と安心を国民のニーズとして捉え社会に還元していこうとしています.技術開発のテーマとしてはそれほど大きな市場があるわけでもない分野が多いのですが,ブレイクスルーしたときに非常に世の中に安心を与えられることがいっぱいあり,そういう技術をどう探していくのかが課題になっています.
国民のアンケートでは,一番関心の高いものは環境で,これは第2期から高かったものです.その次として安全な社会への要求が非常に高く出ています.第2期と比べこの5年間で安全に対するニーズが国民の中で高くなっています.
ここでは大きな市場を作るといったこととは違う世界で,技術を活かしていくイノベーションプロセスを作っていかなければならないと考えています.
科学技術は国民の期待にどのように応えていくべきか?
〜最新の内閣府世論調査の結果より(「科学技術に関する世論調査」、平成17年5月実施)〜
実際に毒物を撒いた事件があったり,テロなどのリスクが高まってきています.これまでの自然災害においては防ぐための手法はありました.しかし,ものごとを人為的に壊しにくることに対して,日本社会はまだまだ対応能力は低いと思います.そのなかで科学技術はどこまでそれに貢献できるかということです.
ひとつの例としてセンサ技術を挙げてみたいと思います.仮にある場所で毒物が撒かれたとして,ガスの特定のためには現場でサンプリングを行い,収集しガスクロマト装置で検出するのに1時間以上は掛ります.迅速な毒性ガス検知が必要になるわけですが,その検知装置の研究開発が実施されています.もともとはイオンビーム照射によるナノレベル加工の技術だったのですが,それを使い特定の物質だけを特異的に吸着できるものを作り,特定の毒ガスを検出するものです.当初は技法としては全く想定もしていなかったものですが,有毒ガスの迅速検知のニーズが高まる中で研究開発されたものです.
このように市場向けの製品を作ろうとして,思っていなかった方面に使える技術が多くあるのではないかと考えています.このようなことは大企業ばかりでなく中小企業にも多くあると思っています.それを安全・安心という違う方向に視点をもっていけば社会的なブレイクスルーにもっていけるのではないかと思っています.これも第3期の一つの課題で,安全・安心が戦略重点科学技術の観点の1つになっていることからも言えると思います.
■地域における産学官連携については先ほどもお話がありましたが,ほかにもありますか.
内丸:地域においていま面白い試みもおこなわれております.地域のクラスター化と平行して,地域の知の拠点再生プログラムが挙げられています.具体的には地域の課題の解決に貢献できるような人材の育成を図っていくことです.地域には固有の防災上の問題や環境上の問題があったりします.また産業では地域固有の伝統産業がありますが,そういうところにきめ細かく目を向け地域の大学を中心として対応を後押ししていこうということです.
いま地域の状況が大変であるという認識から,地域の再生を図ることが非常に重要になっており,政府の中に地域再生本部というのができています.そことも連携を図り科学技術が地域の再生に一役買おうということで,人材の育成に焦点を絞った試みをしています.具体的には地域の問題解決や発展のために貢献する人材を育成するコースを大学に作っていく,そういうところを支援していこうという動きです.
■施策の中でものづくりに関係するものがあればお話ください.
内丸:第3期の特徴としまして,科学技術が何を目指しているか国民に見えやすく示そうということを最初にお話しました.その中で政策目標というのが決まってきています.
その中の大きな部門として「ものづくりナンバーワン国家を目指そう」というのがあり,それに関連した目標がいくつか挙げられています.その目標に向けて色々な施策を進めていこうということが述べられています.
ものづくりとある意味で表裏一体であるエネルギー,環境の問題も政策課題として出ており,ものづくりにおけるキーワードになると考えられます.
■第3期を進めていくにあたってのポイントをお話ください.
内丸:今回イノベーションということについて色々議論しました.
「第3期基本計画における基本姿勢」の中で,「成果を還元」を「…絶え間なく科学の発展を図り知的・文化的価値を創出するとともに,研究開発の成果をイノベーションを通じて,社会・国民に還元する努力を強化すること,…」と説明しています.
そのイノベーションを「科学的発見や技術的発明を洞察力と融合し発展させ,新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新」と定義しました.イノベーションというのは世界的には経済的価値に焦点がおかれていますが,社会的価値というのが加わったのはおそらく世界で初めてだと思います.
市場経済が発展していくための努力に加え,国内を見たときに世の中に不安を感じている国民のニーズに応えるためにも,社会的な価値を育てていく試みの現われです.
イノベーションを進めていくときに,現在ある技術を使って実現を図っていくとともに,不断にイノベーションの種を追加していかなければ持続はできません.
イノベーションの問題はそれに関係する企業や大学や研究機関の研究者の問題だけでなく,普通に大学などで研究をしておられる方たちも常に問題意識をもってやっていただきたいと思っています.科学技術コミュニティー全体がイノベーションを意識してやっていくことが大事だと思います.
また第2期が重点4分野に力が入っていたことにより分野別に差が生じ,力を入れるべき科学技術に入っていないこともありました.第3期では推進4分野の中でもよいものは戦略重点科学技術として選ぶことにより,バランスがよいものになっていると思います.
「明日への投資をやっていこう」と総理も言われていますが,25兆円という投資が歳出引き締めの方向に向かっている中で決まったことは,その責任の重さは第2期以上に大きいと思っています.
本日はお忙しい中ありがとうございました.
メカトロニクス2006年6月号掲載


