【試験機の絵本】 ’09からの発信 —第1回 感覚の科学—
★ご好評をいただいた記事を再掲載いたしました★
■はじめに
前回までは連載の副題を「オーケストラの雇われ指揮者」としてきたが、新年ということにちなみ、今回から「’09からの発信」を新たな副題とすることにした。初回のテーマは今回に限りいつもと一味変えて、人間の感覚にまつわる短編2本をお届けする。
1.〜音楽とのふれあい〜
話は楽器メーカーのヤマハにピアノ線を納入している鈴木金属工業(株)の技術チーフN氏の「ヤマハの技術屋さんとの雑談で『そちらの検査合格の線を長いこと使っていて、できたピアノの音が甘い時と辛い時がある様に思う』と言われたが、試験機屋さんの立場から、何か心当たりやアドバイスはありませんか?」という相談からはじまった。
そこでとりあえず、原始的なピアノを作って考えてみることにした。本体は鋳鉄製の頑丈なフレームにピアノ線を張ったもの。音階は、弦の長さ/太さ/張力などにより決まり、ピアノの場合の音域は27Hz〜4168Hzである。枠体は長さ1.2mで、古いリラクゼーション試験機(図1)を3台使用し、これを試料と考えることにした。両端はロードセルと掴み部と張線部で構成され、中間には打鍵ユニットと音階設定(フレット)があり、センシングヘッドとアンプを用いてみると一応音が出せるようになった(図2)。
しかし、弦が3本あればギターのように音階が出せると思っていたのが大間違いであった。私は調律ができず、メトロノームもなかったため、調律はギターが分かる者に任せてギブアップした。中途半端な結果に終わってしまったものの、改めて音の世界の奥深さを痛感した。ピアノは楽器の王様と呼ばれオーケストラの中心に位置している。バイオリンやチェロ、コントラバスの弦楽器や木管金管の吹奏楽などは必要に応じてマイクやピックアップとアンプで増幅できる。また本格的な電子楽器であるシンセサイザーは、バイオリンなどの弦楽器から打楽器、木琴、尺八や三味線など生楽器の近似音からはじまり、加えて電子独特のファンキー、ハスキーとかディストーションの音を作り出すこともできる(図3)。作曲家、演奏家など音楽に関わる業界人に敬意を表すとともに、様々な美しい音を作り出す人間の感性の不思議さを感じたエピソードである。
2.〜歯応えも味のうち〜
味についての良し悪しとして、「歯応えも味のうち」と言われることもあるが、確かにそうだと思われる食品もかなりある。たけのこのシャキシャキ、漬物のポリポリ、煎餅のザクザク、ご飯のもちもち、かまぼこのプリプリ、チューインガムのねちゃねちゃなどがそれに当たる。この歯応えはテクスチャ(Texture)と呼ばれ、JISZ28144の中に検査用語として『口内で感知できる食品の物理学的性質または触覚/視覚/聴覚によって判断できる食品の組織学的性質』と規格されており、この場合のテクスチャと言うのは食品を表面的な感覚として扱っていることになる(JISでは官能検査に規格している)。これは科学技術が万能として考えられている現在の中でも‘感覚’という表現が生きている証であるが、データの数値化が難点であった。それを一歩前進させたのがこのメカトロニクスによる歯応え試験機であった。
歯応え試験機の全体構成としては、噛む動きを図4のような手動/電動によるピストン運動で作り下あごとし、それに対する上あご部分にロードセルがある。あごに当たる部分は図5のような機構で、取り込んだデータはアナログ/デジタルスコープの時間軸に登録されるようになる(図6)。しかし食品にも色々な種類があり、例えば煎餅(スコープ画面の赤線)が豆腐(青線)と比べてみるとはるかに硬いことが記録結果からわかる。だが、試料によっては接触子を様々に換えてみても粘度/歯応え(きめ)についての数値化が困難な場合もあり、結局は人間の専門である五感を頼ることになった。
人を使って試験する際には、まず体験を受ける人を何人か選び、環境を整えるため、選挙の投票所のような一定の場所で実施する(図7)。歯応え試験に使う試料は味のないサンプルを何種類か用いて、評価は単純選別やレベル分けされた数値評価(図8) で測る。数値評価の最近の身近な例としては食品や商品の人気投票、大衆のアンケート、選挙や政治経済が挙げられ、評価結果は棒グラフ/線グラフ/扇形グラフなどで表される。この評価方法は個々人の好みを測定するため、科学的とは言いにくいやり方かもしれないが、人間味のある分野である。
著者:飯野 純夫
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